左手だけのピアノ世界―脳出血麻痺の演奏家が知った「音楽の素晴らしさ同じ」

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   ピアニストが突然の病で倒れ、右手が利かなくなったとしたらどうすればよいのだろう。クローズアップ現代は「音楽にすべてをゆだねて」と題して、左手1本でピアノに向き合う「左手のピアニスト」になった音楽家を取り上げた。

   舘野泉さんは音楽家の両親のもとに生まれ、まさにピアニストになるべくしてなったような人生だった。世界各地を演奏して回り、名ピアニストとして名声をほしいままにした。しかし約10年前、65歳のときにステージ上で脳出血を起こして倒れ、右半身の麻痺が残ってしまった。医者からはピアニストとしての復帰は無理だと宣告されたという。

「ハンディを持ってる人の音楽ということではないんです」

   自分でピアノを弾きたい、聴衆に聴いてもらいたいという「たまらない飢え」を感じた。1年半ほどはピアノが弾けず、左手1本で演奏することにも興味はなかった。左手用のピアノ曲は知っており、かつて自分で演奏したこともあったが、「両方の手が動いてはじめて、復帰できる」と考えていたからだ。

   しかし、息子が20世紀初頭のイギリス人作曲家(譜面を見る限り、フランク・ブリッジという人であるが、番組では名前は伏せられた)の左手のためのピアノ曲の譜面を持ってきてくれたときに、なぜか急にひらめいた。「これを弾けばいいんだ。これでまた音楽が変わりなくできる」

   以前はつまらないと思っていた左手用の曲も、練習するうちに「生きて、動いて音楽が語りはじめた」と感じだした。それは素晴らしい気持ちだった。

   左手のピアニストとして活動するようになって、はや8年。古典から現代音楽、ジャズまで幅広く演奏する。この5月から「左手の音楽祭」というコンサートツアーをはじめた。2年がかりで16回開催し、新作を数多く演奏するという。

「(左手のピアノは)ハンディを持ってる人の音楽だと思われるかもしれないが、それは違う」。あくまで和やかで穏やかな口調で、舘野さんは話す。「手は1本であれ、3本であれ、2本であれ、同じすばらしい音楽ができるんだということを聴いてもらいたい」

ボンド柳生

NHKクローズアップ現代(2012年5月22日放送「音楽にすべてをゆだねて 左手のピアニスト 舘野泉」)

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