エジプト大統領選「アラブの春」の主役・若者に出番なし

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   民主化を求め若者たちが立ち上がった「アラブの春」から1年3か月。エジプトで事実上、初の自由投票による大統領選挙が行われている。現地からは、投票を待つ晴れやかな市民の表情が伝えられてくるが、有力候補者といわれる人たちを見ると、旧ムバラク政権当時の閣僚やイスラム原理主義のムスリム同胞団が擁立する候補者が目立ち、若者たちが擁立する候補者の姿はない。

旧ムバラク政権幹部VSイスラム原理主義

   現在、12人が大統領選に立候補しているが、「クローズアップ現代」が挙げた有力候補は4人だ。大雑把に分けると、旧政権派は元空軍司令官で元首相のアフマド・シャフィーク(70)と前アラブ連盟事務局長で元外相のアムル・ムーサ(75)。イスラム系は先の議会選挙で第1党になった自由公正党党首のムハンマド・ムルシ(60)、元ムスリム同胞団幹部のアルドルモネイム・アブルフトゥーフ(60)である。

   中でも有力視されているのがムルシ。地方の農村部に支持を拡大している。開発に取り残された農村部は、住民の3人に1人が1日2ドル以下で暮らす貧困層で、ムスリム同胞団はこうした農村部に長年、食料や医療の支援で根強い支持を得てきた。モルシが当選すれば、議会も大統領もイスラム勢力が押さえることになる。

   その危機感から、軍の後押しで立候補し有力候補とされるのがシャフィークだ。昨年1月(2011年)にムバラク政権の首相に就任し、民主化運動ではデモ弾圧を指揮したことで知られるが、一部の世論調査では1位に躍り出たといわれる。

   この2派の激しい対立の中で、候補を擁立できなかった若者たちが注目しているのが穏健派のアブルフトゥーフだ。かつてムスリム同胞団に所属していたが強硬路線の指導者と対立して脱退し、その後もムバラク政権を批判する活動を続けてきた。しかし、政治経験が全くないアブルフトゥーフに若者たちは疑問を感じ始めているという。カイロの藤井俊宏記者はこうした混迷の大統領選について次のように伝えた。

「どの候補者も治安の回復と貧困の解消を公約に掲げ、政策面で大きな差はありません。農村部はムスリム同胞団を支持し、ムバラク政権時代の経済政策の恩恵を受けた中流層や企業経営者はシャフィーク氏を支持する構図になっています。
ただ、情勢は混沌としていて、各種世論調査では有力候補4人の順位はたびたび入れ替わっています。投票で有効票の過半数を超える候補者が出るとは見られていないので、来月に行われる上位2人の決選投票になる公算が高まっています」

主要産業の観光落ち込み激しく経済成長ゼロ

   エジプトの実情に詳しい日大国際関係学部の横田貴之准教授に、国谷弘子キャスターが「旧体制で首相を務めたシャフィーク氏が支持を伸ばしているのはどういうことですか」と聞く。

「私も驚いているが、今のエジプトが抱える問題に治安と経済がある。治安は革命後に非常に悪化したが、その影響を受けて経済の落ち込みが激しい。そうした中で治安を回復してくれるシャフィーク氏に期待が集まっていると言える」

   革命前に4~7%あった経済成長率が今はゼロ。とくに落ち込みが激しいのは、GDPの15~20%を占める観光業で、革命前に比べ30%も落ち込んでいるという。

   国谷「ムルシ氏はイスラム色の強い国づくりを公約に掲げているが…」

   横田「同胞団は段階的なイスラム化を唱えており、政権を取ったとしても直ぐにはイスラム化は考えにくい」

   大統領選が終われば新憲法の制定が待っている。国家と宗教の関係や大統領と軍の役割をどこまで制限するかなどが争点になっており、だれが大統領になっても新憲法制定は一筋縄ではいきそうもない。29日に今回の投票結果が発表され、過半数を得る候補がいなければ上位2人による決選投票が6月16、17日に行われる。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2012年5月23日放送「『アラブの春』はどこへ~揺れるエジプト大統領選~」)

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