取り調べ可視化でもなくならない供述誘導・ストーリー調書

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   大阪地検特捜部の証拠改ざん事件をきっかけに、検察改革の柱として取り調べの様子を録音・録画する可視化はどうあるべきか。最高検は4日(2012年7月)、全国の検察で実験的に行われてきた可視化の結果を公表した。「クローズアップ現代」はそれに先立って、実際に検察内部にカメラを入れて、可視化の中で取り調べに当たる検事を取材していた。

   そこで見えてきたのは、可視化を有効な証拠として積極的に受け入れる姿勢と、逆に「真相解明が遠のく」とデメリットを懸念する声だ。それどころか、可視化を逆手にとってストーリーを作る呆れた検事の姿もいた。

リハーサル通りに「ハイ、そうです」自白要求する検事

   検察の可視化実験で対象になった事件は2500件。全体の3割という。カメラが入ったのは、このうち300件の可視化を試行した埼玉地検刑事部で、任官4年目という織川聡美検事の強盗傷害事件容疑者の初取り調べだった。

   まず録音・録画を通知し、本人の承諾を得たうえで1時間にわたり取り調べた。しかし、容疑者はあれやこれや言い訳して犯行を否認し続けたらしい。取り調べを始めてから10日目、容疑者を起訴できるかどうか判断する最後の取り調べで、それまで集めた証拠を示し説明を求めたが、容疑者は否認を続けたままだ。しかし、可視化によって二転三転する容疑者の記録が残り、供述の不自然さを十分証明できると判断した織川検事は、上司の決済を得て起訴に踏み切った。

   一方、織川検事の先輩になる任官8年目の小西七重検事は、過去の経験からこんな心配をする。「暴力団員の取り調べで、『ここだけの話なんですけどね』と拳銃のありかを教えてくれたり、上部組織の犯罪を教えてくれたりとかがあった。カメラが回っていると『ここだけの話』ができなくなる」

   最高検は可視化の範囲を拡大するよう全国の検察に指示しているが、可視化の義務付けには反対していて、取り調べを受ける人が拒否したり、取り調べに支障が生ずる場合の例外規定を設け、実施については検事の裁量に任せている。

   ところが、可視化の趣旨を無視し、むしろ逆手にとって強引な捜査が大阪地検で行われていた。車で歩行者をはねて死亡させた男性が逮捕され、大阪地検が起訴した。男性は一貫して無罪を主張し、今年3月に無罪が確定した。男性はいまも大阪地検の取り調べは納得できないと憤る。

   男性が録音・録画されたのは逮捕から19日目の取り調べだった。30分間のやり取りだったが、検事は録音・録画を始める前に、どのようにやるかのリハーサルを行い、本番のカメラの前でも「ハイ、そうです」とリハーサル通りやるように要求したという。男性の事件を担当した黒田一弘弁護士は「取り調べが適正だったことを強調するために可視化を都合よく利用した」と批判している。

検事まかせの「一部可視化」でいいとこ取り

   キャスターの国谷裕子が笠間治雄検事総長に厳しい質問を浴びせた。「なにが不祥事を招き、ここまでの信頼失墜に繋がったと考えてらっしゃいますか」

   笠間「本当のことは何なのかというのが捜査のはずなのに、調書さえ取れば何とかなるという間違った考えが出てきた。垢が積もり積もっていたのだろう」

   国谷「しかし一方で、(可視化の)リハーサルが行われたという指摘もあります。一部だけの可視化ですと、いいとこ取りをした可視化が行われるのではという疑念が持たれかねません」

   笠間「リハーサルの件は多分、録音・録画が初期の段階だったためで、初めてなのでついやってしまったのだろう。全過程の録音・録画をやった場合、その弊害がモロに出ると思う。とくに共犯事件であったりすると、組織のボスのことはしゃべらない。可視化の義務付けは到底、捜査機関は受け入れられない話だろう」

   これだけ不祥事が重なれば、可視化の義務付けは時代の流れといえる。ただ、捜査に支障をきたすケースがあることも理解できる。検事の裁量に任すのではなく、例外規定を具体的に設け、厳しくチェックできる体制づくりなど、どこかで折り合いをつける必要がありそうだ。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2012年7月4日放送「『密室』は開かれるのか~検証・取り調べの可視化~」

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