生かされなかった「これまで経験したことのない大雨」情報―自治体担当者に危機感伝わらず

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   熊本、大分、そして福岡と九州を襲った1時間に100ミリを超える集中豪雨がもたらした想定外の土砂災害や洪水で、死者、行方不明者は30人を超えいまだに行方の分からない人もいる。「これまで経験したことのないような大雨」という導入したばかりの新防災情報も出た。人命にかかわる危機的状況にあることを自治体に伝える最大限のフレーズだ。

   ところが、その意味が現場の自治体に理解されず、迅速な避難指示に繋がらなかった。危機的状況を伝えることの難しさを「クローズアップ現代」が検証したが、そこで見えてきたのは新防災警報に対する気象庁と自治体の防災現場担当者との認識のギャップだった。

モニター表示されたが「具体的なデータなく住民避難に結びつかないと判断」

   火の国・熊本のシンボル阿蘇山は、最高峰の高岳、中岳、根子岳、杵島岳、往生岳の5山からなり、正式には阿蘇五岳と呼ばれる。この豊かな自然に囲まれた観光の名所で、山肌がえぐられいたる所に土砂崩れが起きた。東シナ海から吹き込んだ湿った空気が阿蘇山にぶつかって上昇し、次々と積乱雲が生まれ大量の雨を降らせたのだ。

   気象庁や熊本市危機管理防災総室のその時の様子をたどってみると、7月11日(2012年)に降り出した雨は次第に強まり、12日0時半には市内に洪水警報が出された。危機管理防災総室に職員98人が集まり特別警戒態勢が敷かれた。

   一方、気象庁のレーダーは午前2時半には阿蘇市付近で1時間120ミリの猛烈な雨が降ったことを示していた。そのため、数年に1度の大雨を想定した警報より強い「記録的短時間大雨情報」を出すことにした。ところが、大雨は短時間で収まらず、その後も1時間に110ミリ以上の降雨が降り続き、結局、「記録的短時間大雨情報」の発令は3時間余りの間に計7回にも及んだ。

   気象庁の予報官はさらに強く危機を訴えようと、6月に導入したばかりの新防災情報「これまで経験したことのないような大雨」の検討を始めた。この新防災情報ができたのは昨年9月に紀伊半島を襲った集中豪雨がきっかけだ。この時も「記録的短時間大雨情報」が繰り返し出されたが、危機感が伝わらず多くの犠牲者を出した。

   気象庁は午前6時41分に新防災情報が初めて出した。「少しでも危機感が伝わって、身の安全をはかる行動に繋げていただければいい」という予報官の願いだった。この情報が熊本市の危機管理防災総室の届いたのは午前6時46分。ただ、モニターに表示された最初のタイトルはこれまでと同じ通常の気象情報。開いてみると、「これまでに経験したことのないような大雨」と記されていたが、担当者はこのフレーズの重要性に気付かなかった。「雨量などの具体的なデータがなく、住民避難に直接結びつかないと判断」(担当者)、住民避難に生かされることはなかった。

   熊本市が一部地域の住民に避難指示を出したのは午前7時5分で、根拠となったのは市内の河川水位のデータだった。市内を流れる河川の流域全体に避難指示が出されたのはさらに2時間以上も経った午前9時20分で、すでに多くの住宅が水に浸っていた。重要情報に対する認識のギャップがあったことは明らかだ。

地域をはっきりさせた情報じゃないと役立たない

   危機管理防災総室の田中常起副室長は「非常に情報が錯綜していたなかで、どういった形で避難指示をするのか、情報がうまく伝わらなかったかった事実はあります。いろんな機関との情報共有や連携を今後の検討課題にしたい」と反省している。気象庁も危機的状況を呼びかける情報伝達の方法をもう少し工夫した方がいい。

   番組キャスターの国谷裕子は「気象庁としてはどんな思いで伝えたのでしょうかね」と残念がる。静岡大学防災総合センターの牛山素行副センター長は次のように話す。

「(新防災情報は)長い時間雨量が激しく続くことを伝えようとした情報なのだが、もう一つ注意が必要です。日本の中で経験したことがないような大雨ではなく、熊本・阿蘇地方に対し経験したことがないような大雨、どこに対して出されているのかはっきり認識しないとこの情報は生きてこない」

   災害時に市町には多くの情報が集まる。さまざまな情報の中で瞬時にどの情報が重要か判断するのはなかなか難しい。これが最重要だということを多く人が認識できるような表示の仕方を考えることも大事だろう。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2012年7月18日放送「警報は生かされたのか 九州北部豪雨災害」)

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