厚労省が見殺しにした印刷工たち!有毒洗浄剤規制せず次々胆管がん死

印刷

   大阪のある印刷会社では、勤めていた20~30代の若い従業員ばかり7人が治療の難しい胆管がんで亡くなっていた。いずれもインクを洗浄するための「1,2-ジクロロプロパン」という化学物質を大量に使う校正印刷の作業に従事していた。その後の調べで、亡くなった7人を含め14人の胆管がん発症が確認された。

   アメリカでは25年も前に「発がん性の疑いあり」として1,2-ジクロロプロパンは規制されたが、日本ではその情報を得ながら使われ続け、厚生労働省の調査によると、全国の印刷会社で分かっただけでも34人が胆管がんを発症していた。「クローズアップ現代」がその真相に迫ったが、見えてきたのは海外からの有益な情報を拒む厚労省の独善的な判断だった。

アメリカが規制に踏み切ってからも20年放置

   大阪の印刷会社はこの化学物質を、印刷機についたインクの洗浄剤として、少なくとも1996年から2006年まで大量に使ってきたことが分かっている。「インクの油がよく落ち、すぐ乾くので使い勝手がよかった」らしい。しかし、1,2-ジクロロプロパンを吸い込むと、肺から血管を通じて肝臓に集まり、肝臓の中に入り込んでいる胆管を刺激してがんを発症させる。

   18歳からこの印刷会社に勤め始めた本田真吾さん(30)は、入社3年目あたりから職場の周りの人たちに異変が起き始めたのに気づいた。よく食事に誘ってくれ、兄のように慕っていた4歳年上の先輩が胆管がんを発症して2年後になくなった。27歳だった。別の先輩従業員も胆管がんで36歳で亡くなった。その直後の2006年、本田さんも体がだるいなど体調を崩し、病院で調べてもらったところ肝臓機能が悪化していることが分かり会社を辞めた。

   「自分にいつがんが発症するか不安な思いもあるし、少しでも早く治したい」と語る本田さんに、最近、医師から辛い事実が告げられた。検査で胆管がんの疑いがある腫瘍が見つかったというのだ。

「まだやり残したことがあるし、生きたいと思う。怖いですね」

   30歳の若手からこんな言葉を聞くのは辛い。なぜ長年にわたって異変が発生していたのに、会社は1,2-ジクロロプロパンに気付かなかったのか。実は、アメリカは25年も前にこの化学物質の使用に危険信号を発していた。1970年代にはアメリカでも農薬として広く使われていたが、85年ころからある農村で子どものがん発症が急増、1,2-ジクロロプロパンが原因ではと報道されたのを機に政府が動いた。

   翌86年に政府が行っていた動物実験の報告書が公表され、ラット(ドブネズミ)でははっきりした結果は出なかったが、マウス(ハツカネズミ)では発がん性を確認した。これを受けて、米環境保護庁(EPA)はこの化学物質を危険度3番目の「B2」に分類して規制の対象にした。アメリカのシステムについて、化学物質政策シンクタンク代表のギルバート・ロス博士は次のように話す。

「限定的であれ、動物に発がん性が確認されれば、『発がん性が疑われる』として公表するのがアメリカです。政府が公表する有害情報を会社が周知しなければ、巨額の罰金を支払うことになり、実質的な規制になるのです」

厚労省担当課長「EPA(米環境保護庁)がやっても、われわれは独自判断」

   日本も製品安全データシートに載せるべきではなかったのか。ところが、厚労省はこの情報を無視した。厚労省労働安全衛生部の半田有通課長は「アメリカの実験結果は完全なものとは言い難かった。EPAがやったから『ハイ、やります』という話ではない。われわれの中で判断します」と開き直る。

   アメリカから得た情報をもとに早く動物実験をやっていれば、あるいは胆管がんの発症は防げたかもしれない。厚労省が問題の化学物質の動物実験を実施したのは、アメリカが規制してから十数年後の2000年だ。ラット、マウスで発がん性を確認し、ようやく規制に踏み切ったのは06年だ。アメリカより20年以上も遅れた。

   国谷裕子キャスター「遅いですね。有害情報を知ったらどうすればいいのでしょう」

   化学物質のリスク評価に詳しい北海道大学の岸玲子教授がこう答えた。「有害物質の情報を得たら情報公開、伝達を早くするというのが原則でしょう。発がん性物質の動物実験は5年かかり、実験施設は1か所しかない。体制を整備するのが望ましいのですが…」

   ごく当たり前の安心・安全の原則に思えるのだが、役所のメンツなのか怠慢なのか、それがこの国ではすんなり運ばない。これが日本の厚労省流だ。

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2012年9月26日放送「知らされなかった危険~胆管がん 相次ぐ死亡報告~」
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