2024年 4月 19日 (金)

<鍵泥棒のメソッド>
堺雅人「殺し屋・香川照之に入れ替わる貧乏役者」ほろっとしてクスッと笑って…正統派エンタメ満喫

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(C)2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会
(C)2012「鍵泥棒のメソッド」製作委員会

   映像的な小説だなと思うことがたまにあるのだけれど、その逆には久しぶりに出合った。ひと言にすると「すごく小説っぽい映画」だった。二転三転しながらも全てが大団円に向けて集約していく感じが、出来のいいエンタメ小説の読後感とそっくりなのである。メインキャストは3人で、堺雅人が売れない貧乏役者、香川照之が記憶喪失の殺し屋、それに婚活中の女性編集長を広末涼子が演じる。

ド変人の女編集長・広末涼子がこれまた可愛い

   銭湯で大転倒したショックで記憶までぶっとんだ殺し屋は、自分が売れない役者だと思い込んでしまう。勘違いの原因は、金に困った貧乏役者が転倒現場に居合わせ、殺し屋が病院に運ばれる隙に腕にあったロッカーキーを自分のそれとこっそり交換したことだった。

   この設定をわかりやすく書くのに、もう10分もかかっているのだけれど、ちゃんと伝わっているのか甚だ不安だ。観れば一発なんだけど、ここまでのシーンが凝ってるんです。中身入れ替わりもの(「恋するナポリタン的」なんかがこのパターン)はよくあるんだけれど、これはあくまで殺し屋の記憶喪失に貧乏役者がつけこんだ形で成り立つ不思議な入れ替わりだ。

   殺し屋が自分を貧乏役者だと思い込んでいるからって、貧乏役者のほうが殺し屋になりきる必要なんてないのだけれど、テンパりながらもなぜか入れ替わりをしちゃう稀代の阿呆役者が堺雅人にぴったり。情けな格好いいというジャンルは彼の独壇場です。ああ、なんたるヘタレ。なのになんたる好男子!思わず、この映画の帰りにエッセイ集買っちゃったよ。「文・堺雅人」ってやつです、参考までに。

   とぼけた味わいの広末もいい。彼女を観るのは去年の深夜ドラマ以来だが、元オミズのはすっぱ幽霊ちゃんの役から一転して、清楚で一本気で浮世離れした印象を受ける。「この日に結婚予定ですが、まだ相手は決まっていません。相手の条件は、健康で真面目な方ならどなたでも」と言い切るド変人の女編集長役なんだけど、とにかく可愛くって、思わず幸せを願ってしまう。広末の声は本当に透明で、楽器みたいに反響する。

芸達者3人「もがけばもがくほど事態は悪化」文句なしに楽しい

   良い意味でひっかかる設定を、最初の1シーンで納得させちゃう芸達者3人だからこそ、あっちこっちに飛ぶ物語のスピード感も生きる。香川が演じる殺し屋は、本当は○○屋…っていうのも、軽いテイストに合っていてよかった。しかし、堺雅人の「演技をする人を演じる」というのはどういう体験なのか。「役者」を演じるのとはまた違う。演技していることがばれている下手くそ役者の演技じゃなくて、本当に上手な芝居をする役者を、映画の中で演じる。堺雅人の凄味を感じます。巧い、そして笑顔に狂気がにじむ人ってなかなかいない。

   全体的には喜劇にちかいピカレスクムービーで、とにかくテンポよくお話に浸かれる。見終わった後に何かが沈殿するタイプの映画ではないけれど、ちょっとほろっとして、くすっと笑って、にやにやしちゃう。広末と香川照之の甘酸っぱいラブストーリーももちろんだけれど、もがけばもがくほど事態を悪化させるヘタレ役者・堺雅人も、情けないを通り越して微笑ましい。「あー正統派のエンタメ…楽しかったぁ!これで明日からも頑張れそう!」な1本でした。

(ばんぶぅ)

オススメ度 ☆☆☆

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