古着から高級アウトドアウェア!いらなくなったらまた再生―何度でも使うアップサイクルが始まった
廃棄処分されたゴミを価値の高い商品に生まれ変わらせるアップサイクルと呼ばれる環境ビジネスが、いま脚光を浴びている。廃棄物のリサイクル商品はどうしても品質や価格が落ちてしまうイメージが強かった。それを新技術やデザインで、高品質、魅力ある全く新しい商品を作り出すのだ。走り始めて数年だが、この動きが世界中でうまく回れば、地球に優しい、地球を救うビジネスモデルになる可能性も見えてきた。
廃棄衣服を利用できないか?分子レベルに戻して再生
日本人が1年間に消費し、不要になって捨てる衣服は年間130万トンもある。このうち、古着として売られたり雑巾などに加工されリサイクルされるのはわずか19%に過ぎない。多くは異なる素材が混ざっていて仕分けが困難のため廃棄処分されている。
ゴミとして廃棄される衣類をもっと再利用できないか。「帝人ファイバー」が商品化に成功した。その最先端の繊維製品リサイクル工場が愛媛県松山市にある。ポリエステル系の衣類を分子レベルに戻して、新品同様の原料に再生する工場である。でき上がったポリエステル糸の品質は、石油から直接作ったものと全く変わらない。しかも、品質が劣化することなく何度でも再生できる。
「帝人ファイバー」はこの新技術を核に、アパレルメーカーを募り、再生糸で商品化したものを販売ルートに乗せてまた回収、これを永久に循環させる完全循環型環境ビジネスを目指している。
しかし、すぐにはビジネスに結び付かなかった。リサイクル過程でコストがかかり過ぎ、石油から製造する従来の衣服に比べ2~3割高く付く。そのため、この糸を使って衣服を製造するアパレルメーカーは現れなかった。
ところが、賛同する米国のアウトドアメーカーが現われた。都会で着る衣服と違って、登山などアウトドア用の衣服は高品質なら少々値段が高くても売れる。高品質を目標に掲げた日米共同のプロジェクトが立ちあがった。生地の強さや乾きの早さ、抗菌・防臭機能など20以上の品質テストをもとに200点を超える試作品の中から販売商品を完成させた。2年がかかったという。
現在、国内はもとより世界中の70以上の直営店で販売していて、従来の商品よりも価格は高いが、売り上げは2~3割増という。また、店頭に古着の回収ボックスを置き、回収した古着をリサイクル工場に運搬するシステムも定着した。
この成功で、これまでソッポを向いていた日本のアパレルメーカーが相次ぎ参入し、今では155社が参加している。環境ビジネスに詳しい早大ビジネススクールの長沼伸也教授が解説する。「古着を使うことで使用するエネルギーは8割減になるのですが、コストが高い。そこで魅力あるデザイン、商品づくりに力を入れた。しかも、環境に優しいという点で、企業の社会的責任という観点からコストは十分回収できると見たのでしょう」