フェンシング銀メダル千田健太の瞬発力支えた究極のアスリートごはん
トップアスリートたちにとって、毎日のトレーニングとともに重要なのは何をいつ食べるかという食事だ。競技の特性に合わせた食事法の研究が進み、ロンドン五輪でも最新科学に基づいた栄養指導が行われ、最多のメダル獲得につながったという。
「豚肉・御飯・サトイモ」でスタミナ不足と太りやすい体質改善
ロンドン五輪「フェンシング男子フルーレ団体」で銀メダルを獲得千田健太選手は、大舞台で驚異的な瞬発力を発揮した。4年前の千田は試合後半のスタミナ不足に悩んでいた。「僕の場合、身長も低いし、スピードとスタミナで勝負しなければならないので、体の動きがすごく重要なんです」という。
フェンシングは1日に10試合以上をこなすため、後半になると疲労が溜まり瞬発力が落ちるという。その悩みを相談したのが国立スポーツ科学センターの長坂聡子管理栄養士だった。長坂がすすめたスタミナ不足解消のためのアスリートメニューは、ビタミンB1が多く含まれる豚肉、糖質が多く含まれる御飯とサトイモだった。エネルギー源となる糖質は筋肉の中で筋グリコーゲンとして貯蔵され、これがなくなると疲労した状態になり運動ができなくなる。長坂はこうしたメニューを練習直後にとるよう指導した。
千田のもう一つの悩みに、体重が増えやすいということがあった。長坂が千田の毎日の食事を調べて原因がわかった。筋肉をつけようと肉類を多く食べていたため、たんぱく質と脂質の量が目安を大きく上回っていたのだ。長坂はたんぱく質を適量に抑えた魚介類やたっぷりの野菜を載せた御飯、豆腐、タマゴ入りスープ、果物ジュースというメニューを考えた。千田は3年間こうしたメニューで食事を科学的にコントロールした。結果は「食事によってここまでパフォーマンスが変わるんだなと思いましたね」という。
サッカー川島永嗣ドイツでも週半分自炊「当たり負けしないための食事」
2010年からベルギーのサッカーチームでプレーする日本代表の川島永嗣選手(GK)は、週の半分を自炊と決めている。体格の良い外国人選手が体ごとぶつかって来るベルギーでのプレーは、体力を激しく消耗する。自炊はより強靭な肉体を作る必要に迫られ、生まれた知恵らしい。
川島は向かいのスーパーで買ったチコリーの効用について得意げに話す。「カリウムやマグネシウムが多く含まれている食材で、足がつるのを防ぐ効果があるんです」
さらに、豚肉の塊から適量を切り落として炒め始めたが、このときタマネギを加えるのを忘れなかった。豚肉は疲労回復につながるビタミンB1が多く含まれ、そのB1をタマネギに含まれるアリシンが体内に摂取しやすくするという。「食事はコンディションづくりに大事だとすごく思いますね」と強調する時の川島はちょっとした栄養士だ。
理想の「アスリートごはん」実は日本食!吉田沙保里も和食派
公認スポーツ栄養士で早稲田大学の田口素子准教授は、「運動に見合うエネルギー量、中身、タイミングを揃えることが重要です」と話す。食べるタイミングは練習や試合が終わった後、できるだけ早くとる。目安は30分程度。早くとることによって、エネルギー源となる筋グリコーゲンの回復が促進され、分解されたたんぱく質の合成を高める働きがあるという。
「クローズアップ現代」はロンドン五輪でイギリスのアスリートが飲んで注目された飲み物を紹介した。分娩した親牛が1週間以内に出す初乳で、病原菌などから仔牛を守るために免疫力を高める成分が含まれている。ただ、田口准教授は「こうした特殊な成分だけで日々のトレーニングや日常生活をすることはできませんから、土台はきちっとした食生活にあることを忘れないようにしないといけない」という。
キャスターの国谷裕子「アスリートたちの食事は特別なのもではないという印象ですが…」
田口准教授「五輪と合わせ13大会連勝を達成し、国民栄誉賞を受賞した吉田沙保里選手が何を食べているか、皆さん興味があると思うが、日本食なんですね。本当に普通の食事。日本食の良さは主食が米で疲労回復につながる糖質がしっかりとれます。世界が注目しているこの食事をもう一度見直したいと考えています」
トップアスリート向けの究極の食事メニュー、結局は昔ながらのご飯を中心にした日本食だったとは。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2013年1月9日放送「アスリートごはん~最新科学が支える究極の食~」)