2024年 4月 19日 (金)

福島原発避難住民「生殺し状態」遅れに遅れる損害賠償手続き

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   東京電力福島第1原発事故からまもなく2年になる。立ち入りが制限され、住まいを追われた被害者たちのなかから「生殺し状態だ」と怨嗟の声が出ている。損害賠償支払いの遅れから、いまだに新しい生活へ踏み出すメドが立たないからだ。土地や住宅など不動産の賠償基準は半年も前に示されているのに、手続きが始まらない。待ち切れなくなった被害者のなかには、国の第三者機関に早期の支払いを申し立てる動きも出てきた。

新しい生活スタートさせようにも元手がない

   立ち入りが制限され賠償の対象になっている土地は、福島県の全面積の5%にもなる。東京都23区とほぼ同じ広さだ。住まいを追われた被害者たちには、当面の生活を支える賠償金や慰謝料が支払われたが、自宅に戻れるメドはなく、新たな土地で再出発するにはまとまった資金が必要だ。土地や住宅などの不動産に対し支払われる賠償金がその元手になる。対象となる不動産の賠償は少なくとも3万5000件、賠償総額は6000億円を超えると見られている。

   東電は昨年7月(2012年)、不動産の賠償基準を発表した。大きく分けて、「6年以上帰れない帰還困難区域」と「放射線量が下がれば避難指示が解除される居住制限区域」だ。たとえば、帰還困難区域の賠償金は不動産の価値が1000万円なら全額が支払われ、居住制限区域のうち3年後までに戻れる区域で1000万円なら6分の3、つまり半分の500万円となる。

   ところが、半年も前に示されたのにもかかわらず、いつ支払われるか決まっていない。東電・福島原子力補償相談室の小川敬雄室長は「残念ながら、何月からはじめられるか申し上げる段階に至っていない」という。

土地評価、所有者確定、金額格差など次々トラブル

   なぜ遅れているのか。賠償手続きに必要な個人情報の入手が遅れていることが大きい。当初、東電は賠償額の算定の根拠に、自治体から固定資産税の評価データを提供してもらうつもりでいた。しかし、総務省から資産に関する個人情報はより慎重に扱うべきだとして反対され、1か月余の議論の末に断念。代わりに、自治体が被害者一人一人に書類を送る方法になった。何もしないまま4か月が過ぎてしまったという。

   さらに、別の問題が浮上した。登記上の所有者と実際に住んでいた人が異なるケースが続出し、全体の3分の2に当たる2万件に達したのだ。祖父や父が亡くなった後も名義を変更しないケースが多かったのだが、取材にあたった福島放送局の記者によると、都市部と違って、土地の取り引きのない地方では「名義変更しないのはごく普通で珍しいことではない」という。相続上の整理がされていないと、賠償は支払われない。「東電と被災者だけでなく、被災者の身内の間でトラブルが発生しかねない」という理由だ。こうして2年が過ぎてしまった。

   待ちきれなくなった被害者から、国の第三者機関である「原子力損害賠償紛争解決センター」に早期の支払いを申し立てる動きも出てきている。申し立てのなかには、東電の賠償基準の不公平さについての苦情申し立てもある。放射線が下がれば避難指示が解除になる「居住制限区域」は、「帰還困難区域」に隣接しても賠償額は半額に減らされる。また、自宅の放射線量が下がっても周囲の森林や学校、病院などの放射線量が高ければ、戻って住むことはできない。きめの粗い東電の賠償基準では、被害者に不満が多いのだ。このため、紛争解決センターは新たに独自の基準を設け、今後の賠償の調停に反映させることにしている。

生活再建支援策と損害賠償ごちゃ混ぜ

   公害などの賠償について研究をしている大阪市立大大学院の除本理史准教授に、キャスターの国谷裕子が「賠償は生活再建の元手と位置付けられていますが、納得というところにいあたらないケースが多々出てきて、難しいですね」と聞く。除本准教授は「生活再建は将来に向けて避難者の生活をどう立て直すかということで、過去に起きた損害をどう償いかという損害賠償とは本来違うものです。それが一体となってしまっている」と、混乱の原因を指摘する。

   除本准教授「なぜかというと、生活再建のための支援策が貧弱だということを意味しているわけで、生活再建をきちんとやっていくことと時間をかけ、納得のいく賠償の両方をきちんとやっていく必要があります」

   たしかに、生活再建も損害賠償もごちゃごちゃ。居住不動産の賠償の次には森林や田畑の賠償問題が続くが、除本准教授は「ふるさとを追われた被害者にとって、金銭評価では計れないものをどう評価するかも大切になってくる」と話す。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2013年1月30日放送「原発事故 進まない『不動産賠償』」)

文   モンブラン
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