2024年 4月 24日 (水)

<偽りなき者 The Hunt>
1度貼られたレッテルに追い詰められる理不尽…子どものウソから始まった幼稚園教諭抹殺

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(c)2012 Zentropa Entertainments19 ApS and Zentropa International
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   冤罪モノ、なんて言葉では軽すぎる。主人公のルーカスはバツイチの幼稚園教諭で、少しくたびれた印象こそあるが、優しそうで眼鏡が似合う。離婚後のゴタゴタを乗り越え、定職を得て、一人息子を元妻の元から取り戻せるめどがたったある日、事件は起こった。

「この幼稚園に、性的嫌がらせを受けた少女がいます」

   児童、それも親友の娘が発したウソが幼稚園職員たちに拡大解釈され、ルーカスは変質者として告発を受ける。何もしていないのだから、もちろん証拠は何一つない。被害児童の証言もあやふやだ。でも、「虐待児童は多くをしゃべらない」「辛い記憶は忘れ去られる」という先入観が大人の目を曇らせる。あなたは前にこう言ったわ。こんな嫌がらせをされたんでしょう。そう確認されるうち、最初は自分の作り話が異常事態を引き起こしたことに戸惑っていた児童までもが、「何が真実かわからない」と混乱を深めていく。

「嫌疑なし」となっても続く嫌がらせ、暴力と差別の集団ヒステリー

   作り事も幾度も話せば真実になる。ルーカスによる児童への性的虐待の様は、人の口を介してディティールが作り上げられ真実となる。バツイチ、男やもめの幼稚園教師、そして変質者。社会的弱者で犯罪者の烙印を押されたルーカスは、真実を訴えようとしても聞く耳をもってもらえない。それどころか、小さな町の中で嫌がらせはエスカレートしていく。せめて最後まで誇り高く。証拠不十分で法の下では無実となっても、なお嫌がらせが続くが、前を向くルーカスが辛い。いわれのない暴力と差別、異常者には何をしてもいいという集団ヒステリーが恐ろしい。

   物語の終盤、ルーカスは動く。自分を足蹴にした親友と接触し、真実を見ろと無言で迫る。二人の関係は修復されるのか、それとも永遠の決別へと続くのかは、映画館で確認してほしいところだが、響き渡る荘厳なバックミュージックが「真実とは」を考えさせる。

   おそらく、人によって結末の評価は分かれるところだろうが、烙印は消せないということ。事実は一つでも、受け手の数だけ「真実」があるということの重さががんと伝わる。相次ぐ再審請求、再審無罪などのニュースに、なんとなく「慣れて」しまう部分があった自分を顧みる一作となった。私はあの事件の何を知っているのだろう。

   メッセージ性の強い作品だけに、ルーカスが変質者だと断定されるまでのプロセスが多少雑だった点は残念だ。それとも、加速していく世論という怪物は、あれほど集団ヒステリーに近いものなのかな。この落ちこんだ気分をどこにもって行けばいいのか…。見る価値はあるけれど、再鑑賞は心情的に辛い。

(ばんぶぅ)

おススメ度☆☆☆

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