2024年 4月 23日 (火)

「アラブの秋」エジプトのジレンマ!アテになるのは強権軍部だけ…大きかった「春」の失敗

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   「アラブの春」が試練に直面している。エジプト軍は先月半ば(2013年7月)、事実上のクーデターで2年前に選挙で選んだモルシ大統領を解任し、これに抗議するデモを強制排除した。これまでに全国で850人の死者が出ている。アメリカはこのままエジプト支援を続けるのか、軍部政権を認めるのか微妙な決断を迫られている。「アラブの春」に失敗したエジプトの先がまったく見えない。

街の声は「経済建て直せるの軍だけ」「民主主義はあとでいい」

   いまカイロの街は午後9時を過ぎると夜間外出禁止令で人通りが絶える。ムバラク時代の非常事態宣言が復活して、令状なしに市民を拘束できる。デモ排除で暫定政府は国際的な批判をあびた。いま、メディアの報道は騒乱はムスリム同胞団のテロ行為によるものと一方的で、テレビは同胞団の武装要員が発砲する姿を繰り返し流す。モルシ氏はヒトラーになぞらえて「独裁者」呼ばわりだ。

   軍を批判したジャーナリストは次々に拘束され、言論弾圧の様相を呈している。世論調査では、軍の介入に賛成が67%、流血の責任は同胞団にあるとの声が62%と軍支持が強いのだが、果たしてどこまで自由な選択で行われた調査のかわからない。

   ただ、軍への期待があることは事実だ。背景には深刻な社会不安があった。モルシ政権は経済の舵取りに失敗し、エジプト通貨は最安値を更新した。輸入品の価格は高騰し、商品は売れず商店は資金繰りに苦しむ。シシ国防相の肖像を掲げたオートバイ部品の販売店主は、「経済を安定させ建て直せるのは軍だけだ」という。主要産業の観光も、政治の混乱を背景にした治安が悪化して観光客が激減した。土産物店の客は10分の1。店員は「治安の回復が先。民主主義はあとでいい」という。

   2年前に「アラブの春」を主導した若者たちは沈黙している。弁護士のタレク・コーリーさんはムバラク元大統領追放のリーダーだった。そのムバラクも保釈された。グループの集まりでも活動の方向は見えてこない。

「軍は旧ムバラク派と一体だ。アラブの秋になった」

   軍を動かしたものは何だったのか。鈴木恵美・早大准教授は「ムバラクは退陣したが、軍の主導体制は温存されていました。一方、同胞団の一部が武装化し、パレスチナのガザのイスラム過激派ハマスから人が入ってきた。軍としては見過ごせないことで、同胞団はトラの尾を踏んでしまった」という。同胞団は上意下達の巨大組織で、幹部がほぼ逮捕されてしまっている現状では、一部が急進化して武闘派が生まれる可能性は高い。最も大きな不安定要因だと鈴木氏はいう。

軍部独裁に経済支援ためらうアメリカ…でも、他に選択肢なし

   注目されるのはアメリカの動きだ。毎年15億㌦(約1500億円)のエジプト支援を継続するのかどうか。オバマ大統領は「エジプトの将来を決めるのはエジプト国民だ。特定の勢力には肩入れしない」というだけだ。

   ワシントン中東研究所のエリック・トレイガー氏は「ジレンマだ」という。「援助を継続するかどうかは、(クーデターで)軍が約束した権力の移行(憲法制定、選挙)が本物 かどうかによります。非民主的な軍への支援はリスクがあるが、支援を停止すれば、中東の安定に欠かせない重要な関係が切れてしまう。圧力をかけても民主化が進む保証はないですからね」と話す。

   この不安定な状態に対処できる能力を持つのはエジプト軍だけで、アメリカは関係を維持したいと思っているとトレイガー氏は見ている。鈴木氏も「それ以外に選択肢はない」という。ただ、国民がいま軍を支持しているのも、次の再民主化への期待があればこそだ。トップのシシ国防相が全政治勢力を容れた体制を作れるかどうか、力量が問われているのだという。

   春だろうと秋だろうと、アラブで常にいわれるのは安定だ。しかし60年このかた、この地域が安定したためしはない。わずかに安定といわれる例も みな「強権」のもとだった。本当の春は遠い。折からシリアがまた火を吹きそうである。

NHKクローズアップ現代(2013年8月29日放送「混迷する『アラブの春』緊迫 中東情勢」)

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