2024年 4月 24日 (水)

向田邦子33回忌…東日本大震災受けあらためて読まれる「家族のなにげない日常」

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   脚本家の向田邦子は33年前の8月22日、取材旅行中の台湾で飛行機事故に遭遇し51歳で亡くなったが、いまなお色あせぬ存在として人々を魅了し続けている。8月下旬に東京・八重洲の書店で「向田邦子33回忌展」が開かれ、テレビドラマ化されて視聴率30%を超えた小説「寺内貫太郎一家」が今年7月(2013年)に再び発売され売れている。

   東日本大震災後は家族や日常を綴った作品が改めて注目され、関連本も続々出版されている。30年以上も前に他界した向田の作品に読者は何を期待し、読み取ろうとするのか。

<母が食卓の上に私と弟の筆箱をならべて、鉛筆をけずっている>

「33回忌を迎えるころは故人を知る人はいなくなっているといわれますが…」

   内多勝康キャスターはこう言って番組をスタートさせたが、故人と接し今も活躍中の友人、知人はまだまだ多い。それだけ早すぎた死だったのだが、親友だった黒柳徹子もそのひとりだ。「人間がまず面白い人だった。次々と新しいものを見つけてきて稀有な人間だったと思います」という。

   向田の約3500本にのぼる作品のうち、代表作は毎年増刷され、エッセーや小説で絶版になったものはないという。

   陸前高田市に住む菅野えり子さんは「心に素直に響いてくるんです。かつて読んだ向田作品を読み返しています」という。なかでも家族のなにげない日常を細やかに描き出したエッセーに惹かれるそうだ。

<忘れられないのは、鉛筆をけずる音である。夜更けにご不浄に起きて廊下に出ると耳慣れた音がする。茶の間をのぞくと、母が食卓の上に私と弟の筆箱をならべて、鉛筆をけずっているのである。私達はみな母のけずった鉛筆がすきだった。けずり口がなめらかで、書きよかった。母は子供が小学校を出るまで一日も欠かさずけずってくれた>(エッセー「子供たちの夜」)

   大震災から2年半、こうした向田作品を読むと不自由な暮らしのなかでも豊かな日常があると思えるようになるという。

   大学院博士課程で現代文学を学ぶ28歳の山口みなみさんが最も好きだいうのは、手袋を人生になぞらえ、迷いながら生きていた20代のころを綴ったエッセーだ。

<私はひと冬を手袋なしですごしたことがあります。気に入らないものをはめるぐらいなら、はめないほうが気持がいいと考えていたようです。
   私が何をしたいのか。私は何に向いているのか…ただ漠然と、今のままではいやだ、何かしっくりしない、と身に過ぎる見果てぬ夢と、爪さき立ちしてもなお手のとどかない現実に腹を立てていたのです>(46歳のときに書いたエッセー「手袋をさがす」)

   山口さんはこのまま研究に打ち込み続けるのが正しいのか不安を感じることがあるという。そんな時、向田のエッセーを読むと「どんな道を選んでも自分が胸を張って生きていられればいいというメッセージが伝わってくるんです」と話す。

親友・澤地久枝「大事にしていたのは『陰り』。物事のもう一つの面である悲しみですね」

   向田の親友だったノンフィクション作家の澤地久枝さんは、「何か思いあぐねることがあると、向田さんと心中で問う。答えはないが、私は向田さんのことをそういうふうにして呼び起こしている」と話す

   内多「作品が平成の時代でも共感を広げている現象をどう感じますか」

   澤地「ずいぶんたくさんの受け取り方があるなと思いましたね。でもね、みなさん、言葉としておっしゃらないけど、向田さんの特徴をひとつと言われたら『陰り』ですね。光が当たるところの陰。それは悲しみでもあるんですけど、向田さんのなかでは『陰り』が大事だったんだと思います。

   あの人も私も『昭和の時代の長女』ですけども、長女として家族の責任を背負っているときに、父親のことを考え、妹や弟をあんなにいとしんで愛した人は珍しいですよ」

   内多「陰りがどうして今の読者に求められているのでしょ?」

   澤地「いま、日本語が大人も含めてひどく乱れていますね。向田さんの作品には非常に美しい昭和のちゃんとした人たちが使っていた言葉が残っています。そして、家族関係が実に細やかで、読んでいるとアッそうかと思う。それが今の若い人たちにも通じているのではないでしょうか。人生には陰があって、それは多くの人の心を打つものだと思います」

   最後に少し脱線するが、筆者にも向田邦子にこんな思い出がある。向田が台湾で事故死したちょうど1週間後、地元の航空便で台湾の高雄から台北に戻る空路での出来事だった。

   離陸してすぐ雷雨に見舞われ、しばらくすると最前列の席に座っていた筆者の座席に天井から水滴がポタポタ落ちてきた。「飛行機でなぜ雨漏りが…」とつぶやくと、本を読んでいた隣の女性が「大丈夫よ」といいながらタオルを取り出し濡れた所を拭き始めた。私服なので気づかなかったが、アルバイトの客室乗務員だというこの女性は、拭き終わると再び本を読み始めた。その泰然自若ぶりが、1週間前に同じこの会社のオンボロ飛行機で事故死した向田の直前の姿だったろうと一瞬重なったことを今も思い出す。

NHKクローズアップ現代(2013年9月4日放送「33年目の向田邦子 なぜ惹(ひ)かれるのか」)

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