2024年 4月 25日 (木)

<さよなら、アドルフ>
ドイツ敗北で人生暗転「ヒトラーの子ども」…逃避行で味わう世間の冷酷さと大人たちのウソ

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(C)2012 Rohfilm GmbH, Lore Holdings Pty Limited, Screen Australia, Creative Scotland and Screen NSW.
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   主人公ローレは14歳だ。彼女を筆頭に、妹、双子の弟、末の赤ん坊の5人きょうだいは優しい両親と幸せな日々を送っていた。「あの日」までは…。第二次世界大戦終結と同時に、ナチス幹部だった両親は全てを失った。住んでいた豪邸を逃れ農家の居候として潜む。銀食器に宝飾品など、かつて生活を彩った金品を物々交換に出してやっとその日の食べ物を手に入る。過酷な生活からまず父が姿を消した。始終気が立った様子だった母も出頭を命じられる。ローレらに残された言葉は2つ。「おばあちゃんの家に行くのよ」「誇りを失わないで」。祖母の家まで約900キロの旅が始まった。

「ユダヤ青年」に窮地救われ困惑

   物々交換を断られ、「ヒトラーの子ども」と後ろ指を指される。言いたいことがあるときっと相手をにらみつける。それがローレなりの「誇り」なのかもしれないが、何かを言いたげな視線は、相手に不気味な、あるいはふてぶてしい印象を与える。汽車代はどうにかあるが、食料も寝床もない。温室育ちのローレにはストリートの知恵もない。気丈にふるまう姿が痛々しい。死体が隣の部屋にある廃墟で寝た。汚れた公衆浴場に行った。ナチスの党員だった老婆に騙された。壁張りの新聞でユダヤ人を虐殺する父の写真を見つけてしまった。信じていた世界がガラガラと崩れ落ちる。無知を恥じる涙なのか、騙されていたという憤りの涙なのか。あまりに悲愴で、目を背けたくなる。

   ローレを悩ますのは、旅路に加わった謎の青年トーマスの存在だった。身分証の提示を求められて困っていたとき、通りすがりに口裏を合わせて救ってくれた。食料も調達してくれる。弟も妹もこのトーマスになついている。しかし、トーマスはユダヤ人だ。嫌悪し排除してきた民族に助けられている自分とは何なのか。困惑するローレとトーマスの不思議な関係は、緊張感を保ったまま進んでいく。

世の中なんてみんな嘘っぱち!14歳少女の刺すような視線

   困難を極める旅路の途中、ローレは双子の弟のうちひとりを失った。しかし、どうにか汽車に乗り祖母の家に着くめどをつけた。だが、別れは突然だった。身分証を紛失したトーマスは汽車から強制下車させられる。ローレに身分証を盗まれたと思い、ガラス越しにこちらを睨みつけるトーマス。それを能面のような表情でみつめるローレ。静かだが、壮絶という言葉が似合う。

   身分証を盗んだのは弟だった。きょうだいはどうにか祖母の家にたどりつく。そこに流れる日常は、両親がいなくなる以前と何も変わらない。穏やかで豊かで、汚い部分から目をそらしたままの世界だ。トーマスはユダヤ人ではなく、弟が抜き取った身分証に写っていた写真は別人だった。ローレは静かに悟る。ナチの夢見た世の中なんてうそっぱちだ。血など何の意味もありはしない。静かに幕は落ちていく。

   大筋を語ってもエッセンスを語りきれた気がしない。迫力のある主人公ローレの「眼力」を見るだけでも足を運ぶ価値のある映画だ。単なる反戦ものというわけでもなく、トーマスも善人ではない。ローレだって清純なヒロインではなく、勝気で冷たい。でも、だからこそ伝わる。複雑なんて言葉じゃ伝わらないくらい、現実は苦い。

(ばんぶぅ)

おススメ度☆☆☆☆

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