<小さいおうち>
女中・タキ60年後の滂沱の涙なぜ…山田洋次監督いま描いておきたかった「戦争と戦後で日本がなくした豊かさと情愛」

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(C)2014「小さいおうち」製作委員会
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   昭和11年、山形の田舎から出てきたタキ(黒木華)は、東京郊外に小さな赤い三角屋根の洋館を構える平井家の女中として奉公する。平井家は玩具会社に勤める主人の雅樹(片岡孝太郎)と美しくてお洒落な妻の時子(松たか子)、そして一人息子の恭一の3人家族だった。タキは気さくで優しい時子に憧れを抱きながら、平井家のために尽くすことに日々の喜びを感じていた。そんなある日、雅樹の部下で板倉(吉岡秀隆)という青年が平井家に現れる。そして、次第に時子が板倉に心を寄せつつあることをタキは静かに悟る。

   60年後、現代になってすっかり年老いたタキ(倍賞千恵子)は、親類の大学生である健史(妻夫木聡)のすすめで自叙伝を綴ることにする。しかし、書き進めていくうちに、封印していた記憶がよみがえり突如泣き伏せる。

たしかに存在していた多様で自由な生き方、働くことにまっすぐだった若者たち

   82歳の現役映画監督、山田洋次の82本目の最新作とあって公開当初から話題を呼んでいたが、先月(2014年2月)、黒木がベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞し、あらためて注目された。

   憧れていた奥様の不倫、ひそかに恋した人の突然の出征、独身を貫いた生涯…。60年後にタキが大粒の涙を流した理由を、時子に内緒で板倉に恋をしたことへの後悔とだけ読むとあまりにもありきたりなストーリーだ。しかし、そういった道ならぬ恋も含め、戦前に確かに存在した多様で自由な生き方、働くことにまっすぐだった若者たち、日本が勝つと信じて疑わず猛進していったあの頃の世論、それらを何もかものみ込んでなきものとしてしまった戦争という大きな歴史の闇も意識しながら観ると、たまらなく胸が締め付けられ、考えさせられる。「今、伝えなくては」という山田監督の焦燥感を感じ取れる、従来作品にはない強い一念が込められた映画である。

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おススメ度:☆☆☆☆

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