次の成長産業に育てろ「パワーアシスト」!サッカーW杯始球式で下半身マヒ男性 補助スーツ着用しキック

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   新成長戦略と「骨太の方針」が24日(2014年6月)に閣議決定された。日本経済のカンフル剤になるような目新しい施策が見当たらないなかで、一つだけ注目したいものがあった。消費型経済から新しい社会改革型経済にパラダイムシフトが起きるのではと期待されている「ロボット技術の活用」だ。

   その象徴的なシーンが、世界中が注目するサッカーW杯ブラジル大会の開幕始球式であった。下半身がまったく動かない男性がパワーアシストスーツを着て、サッカーボールを蹴った瞬間だ。

   この人間補助ロボットの分野で日本は世界トップレベルの技術を持ち、医療のほかに農作業や物流、介護の現場で役立っている。

「補助ロボット技術」世界トップの日本―介護、農作業、物流、医療の現場で次々実用化

   W杯の開幕式で歴史に残るキックを行った男性は、8年前の事故で下半身が完全にマヒし、普段は立ち上がることもできない。この男性のためにパワーアシストスーツを開発したのは、ブラジル政府がロボット工学の専門家や医師を結集して立ち上げた「ウォーク・アゲイン・プロジェクト」だ。リーダーは脳神経学者のデューク大学のミゲル・ニコレリス教授で、脳波で機械を操る技術の第一人者である。

   スーツを着る人の頭に特殊な電極を付け、足を動かしたいと考えた時に出る特有の脳波をキャッチし、悩波は背中のコンピューターで処理されてスーツのモーターや油圧装置を制御して足を動かす。ただ、脳波は微弱で必要な情報を読み取るのが難しい。まして悩波だけで操るのは極めて困難と見られていた。そこで数千人の候補者の中から8人を選び、7か月にわたって歩くイメージを取り戻す作業や集中力を高める訓練を行った。キックオフを果たした男性はその特訓を受けた一人だった。

   日本は製造現場で使う産業用ロボットの分野で世界一のシェアを誇り高い技術を維持しているが、パワーアシストスーツの研究でも世界トップレベルの技術を持っている。その高い技術を活用して、介護、農作業、物流現場で人間補助ロボットが実用化され、医療分野でも開発が進んでいる。

   埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターで、特別な訓練を受けなくてもだれでも簡単に脳波で操作できるスーツの開発が進んでいる。カギはLEDライトだ。点滅する光を見ると強い脳波が出るのを応用して、さまざまな違ったサイクルのLEDライトを点滅させ、生じた脳波を検知することでスーツの操作が可能になる。脳神経学研究室の神作憲司室長は「脳の視覚刺激の反応をキャッチする方法で、ほとんどの人がトレーニングなしで使うことができます」という。ライトの組み合わせを増やし、より複雑な作業を行えるスーツの開発を目指している。

障害者の動作手助け―欧州では実用化。ドイツは公的保険適用

   パワーアシストの分野で日本が世界をリードするもう一つの技術がある。悩波でなく手足の筋肉から発せられる微弱な電気信号を使う仕組みをすでに開発している。脚に障害がある人でも非常に弱い信号が神経と通じて筋肉なで届いている。その信号をセンサーが読み取り、スーツのモーターを回転させて立ったり歩いたりの動作を手助けする。このスーツを開発した筑波大大学院の山海嘉之教授はこう解説する。

「この技術は脳神経系に病気がある方の機能改善ということで、欧州全域で医療機器として実用化されています。ドイツでは公的労災保険が使われるようになり、治療用としてこのロボットが使われています。使っている間に機能が改善されていき、最後はロボットを使わないで日常生活そのものが改善されるようになっているんです」

   キャスターの国谷裕子「日本の成長戦略につながる産業を、こうしたパワーアシスト分野で形成しようとしていますが、その可能性をどう思われますか」

   山海教授「単にモノを作って売るというところから、人のために技術を作り上げ、社会の課題を解決することを一つの産業化にしていこうという流れは素晴らしいですね。消費型経済から社会改革型経済にパラダイムシフトが起こりつつあると思う」

   「必要は発明の母」というが、モノづくりが行き詰まり、低迷する日本経済の突破口が見いだせないなかで、必要性から生まれる社会改革型経済へのシフトは世界中に広がる可能性を秘めており、成長戦略のコア産業として期待できそうだ。

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2014年6月25日放送「『パワーアシスト』が社会を変える」)

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