俳優・高倉健を支えた「人と出会い、みんなで映画を作る感動」いい風が吹きそうなところへ体と心を持っていく

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   高倉健は俳優生活約60年、205本の出演し、不器用で寡黙で一途な男を演じ続けた。その情熱と「独特の孤独感」(ビートたけし)を支えたものは何だったのか。2001年5月の「クローズアップ現代」でキャスターの国谷裕子に語っていた。

「だれかを好きになることが、やっぱり一番強いと思いますね。好きなスタッフに見つめられるときブルブルっとします。鳥肌が立つんですね」

吉永小百合「すごい集中力で、こんな方がいらっしゃるんだと驚きました」

   1956年、25歳でのデビューだった。映画に入ったのは生活のためだったが、65年の「網走番外地」「昭和残侠伝」から任侠映画シリーズが大ヒットした。義理と人情、「死んでもらいます」が決め台詞になる。

   しかし、美術家の横尾忠則によると、「ヤクザ映画から足を洗いたい」と言っていたという。77年の「幸福の黄色いハンカチ」が転機だった。不器用な生き方しかできない誠実で一本気な男、ただしヤクザではない。健さんは目の色変えて役づくりに取り組んだ。刑務所を出所した男がめし屋でビールを飲むシーンがある。思い詰めた目でグラスをにらみ、一気に干して震える。共演した武田鉄矢は「その何秒かのために、前日から食事を抜いていたんです」と話す。

   この1作でイメージができた。社会の荒波の中で懸命に生きる主人公に自らを重ね合わせていた。「(役に)何かを感じなくてはならないと決めてますから。生きてられていいなぁといつも思います」と話していた。

   2・26事件の叛乱将校を演じた80年の「動乱」で、妻を演じた吉永小百合は「すごい集中力で、こんな方がいらっしゃるんだと驚きました。健さんの息づかいが伝わって、芝居をしてるんですが、カメラマンもスタッフもいないかのような状況になっていました」

「人が人を思う。これ以上美しいものはないよね」

   歳を重ね役を重ねて、数々の映画賞を授章する。68歳の99年に「鉄道員(ぽっぽや)」で年老いた鉄道マンを演じた。死んだはずの娘に出会うシーンで、台本にない涙があふれた。「感動していたんでしょうね。出すつもりがなくても出て困った」。演じることが人生そのものになっていた。

   2005年には中国映画「単騎 千里を走る」に出演した。病気で倒れた息子との約束で、中国を旅する父親の役だ。役通りに付き人も伴わず、たった1人で中国へ行った。これにNHKが密着した。

   張芸謀(チャン・イーモウ)監督は、あえて農村の普通の人たちを出演させた。「健さんの友情や感動をこの映画に込めたかった」という。健さんはNGを連発する青年の緊張を解くため、頬をマッサージしたりする。3時間経ってようやくOKがでたとき、青年は真っ先に健さんに駆け寄った。通訳の張景生さんは「スタッフが寒さで震えていると、健さんはそっとカイロを渡す。それは現場の隅々にまで伝わりましたよ」と話す。

   健さんも得るものがあった。農民が演ずる仮面役者が生き別れの息子に会いたいと泣くシーンだった。涙を流し鼻水をたらす姿に、健さんは「新鮮ですね。芝居とは何かをつきつけられた。今頃になって遅いけど...」

   クランクアップでは爆竹が鳴って、誰彼なく抱き合って祝った。健さんもNG青年と抱き合って涙を流していた。戻りの車の中でいう。「人が人を思う。これ以上美しいものはないよね」

   最後の出演が12年の「あなたへ」だ。妻の遺言で故郷の海での散骨に1人旅をする男の物語である。NHKのカメラが人々と触れ合う健さんを捉えていた。「やっぱり出会いだな。いい人に出会うといいものをもらう」

   「同じことは、クローズアップ現代でも言っていた」と国谷はいう。いい出会いを求めて、いい風が吹きそうなところへ、意識して体と心を持っていくんだと。

   健さんの演技は時に暗すぎて息がつまりそうになる。しかし、撮影現場では饒舌だったとだれもがいう。やっぱり三田佳子がいうように「俳優 高倉健を演じていた」のだろうか。おいそれとできることじゃない。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2014年11月20日放送「『人を想う』~映画俳優・高倉健さん~」)

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