詩人「吉野弘」静かなブーム・・・成長神話に疲れた心にしみる「諦めとはちょっと違う優しさ」

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   昨年87歳で亡くなった詩人の吉野弘が静かなブームだという。大正15年生まれで、第二次世界大戦中は軍国少年だったが、日本の敗戦でそれまでの価値観をすべてひっくり返された。その2年後の混乱期に詩人になることを決意したという。

   その際に「初心」として書いた文章が最近見つかり、そこには、愛し合う、助け合うことの大切さを記す一方、人間を「善悪のいずれか一方にその人を押し込めないことです」といった自戒めいた言葉があった。

「祝婚歌」「夕焼け」「生命は」「虹の足」・・・サラリーマンしながら500作品

   吉野はサラリーマン生活をしながら500点の詩を残した。わかりやすい言葉で人間の弱さや不完全さを詩につづった。「何気ない出来事を題材に、他人事をはげますような詩を書きたい」と語っていた。

   代表作には、結婚式でよく朗読されるという「祝婚歌」をはじめ、「夕焼け」「生命は」「虹の足」などがある。「祝婚歌」は結婚生活がうまくいくには二人が立派すぎないほうがいいといったことを記している。

   「夕焼け」は通勤列車のなかの風景を取り上げ、電車のなかで2回老人に席をゆずった少女が、3回目にはゆずらなかったが、その少女を「受難者」となった「やさしい心の持主」と表現している。「生命は」では命は自分自身だけでは完結できないとする。花もおしべ、めしべが揃っているだけでは不十分であり、虫や風が訪れて仲立ちをするといった内容だ。

是枝裕和も映画で引用

   こうした詩は教科書やテレビドラマ、映画などでも多数紹介されてきた。「生命は」を引用したという映画監督の是枝裕和さんは、多くの人が吉野の詩にひきつけられる理由についてこう話す。

「努力して克服していくっていう成長神話に人が疲れてるから、吉野さんの詩の世界観のような、諦めとはちょっと違う優しさが求められてるんじゃないでしょうか。空虚感、孤独感みたいなものはダメなのではなくて、そういうものを感じているからこそ、そこに他者が寄り添って埋めてくれる。隙間があるほうが人間として可能性が広がっているんだと」

NHKクローズアップ現代(2015年1月27日放送「『いまを生きる』言葉~詩人・吉野弘の世界~」)

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