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「ヒト型ロボット世界大会」日本惨敗!電波届かなくても自分で判断する米国ヒューマノイド

   先月5日(2015年6月)、アメリカ・ロサンゼルス郊外ポモナの競馬場で、最先端のヒューマノイド(ヒト型ロボット)の技術を競う世界大会が開かれた。原発事故など災害現場での実用化度を8種類の作業技術と時間を競った。

   大会を主催したのは米国防総省の軍事研究機関DARPA(国防高等研究計画局)だ。GPSもインターネットもここが開発した。今回は災害用ロボットで世界の研究機関を競わせた。参加は6つの国と地域から23体。日本からは東京大、産業技術総合研究所(産総研)など4体が参加したが、ほとんどが2本の脚と2本の腕をもったヒューマノイドだった。福島原発事故の収束に投じられたさまざまなロボットが十分な機能を果たせないことがわかり、あらためてヒト型ロボットの開発が急務となったからだ。

原発事故を想定して8つの課題クリア

   競技のコースは原発事故を想定した造りだった。500メートル離れた部屋から無線でコントロールし、車の運転、建物への侵入、ドアを開けて内部に入り、バルブを回すなど3つの作業をしたあと、がれきを超えて階段を上るという8つの課題をクリアする。制限時間は1時間。

   午前8時、数千人の観客が見守る中で競技が始まった。ところが、予想外の事態が起った。屋外の突風や強い直射日光でセンサーの誤作動が続出したのだ。そうしたなかで、日本の産総研の「HRP-2」が注目を集めた。産総研はヒューマノイドで世界をリードしてきた。HRP-2は30個のしなやかな関節の動きで踊りを踊ることもできる。

   HRP-2は車を運転し、難なくドアを開けて中へ入った。そこでカベにぶつかる。建物内では電波が通りにくく数秒おきに遮断していた。HRP-2はたちまち動きが鈍くなり、外からの指示を待つ時間が長くなった。がれきの認識にも時間がかかり、最後にがれきを抜け出るところで転倒してしまった。足元の4センチの高低差を見誤ったためである。

   対照的に、室内で滑らかに動いたのがMIT(マサチューセッツ工科大)の「ヘリオス」だった。高い自律性を持ち、電波の指示がなくても自分で判断して動く。残念なことに、操作する人間のミスで転倒してしまった。

   優勝は韓国の大学が作った「KAIST」だった。車輪走行式で技術性は高くないが、課題を確実にクリアすることを目指した作戦勝ち。最終結果は、MITは6位、産総研は10位、東大は11位に終わった。

   焦点は「自律性」だった。ヘリオスをはじめアメリカの6体は、DARPAが政府資金だけでなく、ロボット本体も無償で提供してすべて同じハードウエアだったため、各研究機関はソフトの開発に集中でき、認知、行動、バランスを制御する高 度の自律ソフトを開発していた。

   DARPAのマネージャーのギル・プラット氏は「大きな予算を集中して技術を一気に高め、実用化段階に導くのがわれわれの仕事だ。ヒューマノイドはもはや夢ではなく、実用段階に入った」と話す。

米国防総省が資金と研究データを集中・共有

   本田幸夫・大阪工業大学教授は「10位は残念」というが、日本が参加を決めたのは1年前で、開発期間は10か月。HRP-2は10年も前に開発した古いロボットだ。他国は予選から参加して3年をかけていた。「短期間に仕上げた日本の技術力が再認識されたのではないか。同時に、他国が日本を超えたところもある」という。

   アメリカの考え方は興味深い。同じロボット(ハード)を使うことで、個々の体験(データ)の共有ができる。研究機関は開発した技術を政府に提供する義務があるのだという。軍用であれ廃炉ビジネスであれ、実用性を高める上で大きな力になる。アメリカの合理性だろう。

   それはともかく、倒れた最先端ロボットに人が駆け寄る映像はなんとも悲しかった。自律性はいいとして、まずは自分で立ち上がれるモノを作ろうじゃないか。人間なら、赤ん坊でも立ち上がる。ヒューマノイド未だし。

*NHKクローズアップ現代(2015年7月9日放送「人間型ロボット頂上 決戦~進化続ける夢の技術~」)