「僕らは達成できないのわかってた」燃費目標引き上げで三菱自の開発現場・・・幹部指示に逆らえず

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   三菱自動車の燃費偽装は軽自動車の4車種にとどまらず、SUV(スポーツ用多目的車)やミニバンなど新たに5車種に及んでいることが分かり、相川哲郎社長と中尾龍吾副社長が引責辞任に追い込まれた。

   なぜ消費者を欺く不正に手を染めたのか。NHKが入手した社内調査報告書や現場の元社員の証言によると、開発責任者に技術力とは掛け離れた燃費目標を強いられ、やむを得ず偽装に手を染めたのがきっかけだった。

「都合のいいデータ-だけを選び出せ」

   不正の舞台になったのは愛知県岡崎市にある三菱自の技術センターだった。新車開発から性能評価までのいっさいを取り仕切る技術の中枢だ。最初に不正が行われたのは軽自動車「eKワゴン」(32013年発売)で、日産自動車と合弁で設立した会社で企画された。三菱自が開発を担い、実際の開発は子会社の「三菱自動車エンジニアリング(MHE)」に委託された。

   開発がスタートしたのは2011年2月。最初の燃費目標はリッターあたり26.4キロだったが、3か月後の5月には27.0キロに引き上げられた。ガソリン価格の高騰に加え、エコカー減税の導入で燃費の良い車を求める消費者の動きが顕著になったためだ。

   7月には現場の担当者を集めて設計構想評価会議が開かれた。この席で三菱自の開発本部長は「燃費は他社も向上してくるはずであり、目標必達を目指し進めること」と強く要請した。9月には28.0キロ、12年2月に28.2キロに引き上げられ、競合するダイハツが新型車で29.0キロを発表すると、それを上回る燃費が要求された。12年12月の設計品質確認会議で開発責任者から出た言葉は「できれば29.2キロにして欲しい。ナンバーワンと言いたい」だった。

   三菱自の性能実験部に所属していた元社員はこう述懐する。「何十年もやってきて、ひとつの車で(燃費目標が)こんなに変わったのは経験ありませんでした。とんでもない数字だなと思いましたよ。軽のトップのスズキ、ダイハツだからできるんだろうなと。僕らは追いつけないと内心思いながらやっていました」

   車がほぼ完成しても燃費目標の29.2キロには届かなかった。発売まで5か月、国の審査が目前に迫っていた。切羽詰った13年1月に性能実験部の部長から「タイでなら走行抵抗値が下がる可能性がある」と提案があった。気温が高いタイで試験運転をすれば、オイルの潤滑が良くなりタイヤも回転しやすく、燃費が良くなると考えたのだ。しかし、タイでの試験も目標達成には至らなかった。

   調査報告書によると、そんな中で性能実験部の管理職から、都合のいいデータだけを選び出すよう指示が出された。これが不正に手を染める踏み台になった。発売され当時のeKワゴンのカタログを見ると、「すぐれた低燃費」と書かれた活字の下に「燃料消費率29.2キロ/L」とあった。

まるで他人事の相川社長「塀のなかの懲りない面々だよ」

   性能実験部の元社員は「実態を顧みないまま目標だけが先走り、誰もそれに異を唱えることのできない空気が問題の根源にあると感じています。どこかで歯車が狂い、ノーと言えない組織の弱さというか、それが多分にありました」と話す。

   久保田祐佳キャスター「視聴者から自動車メーカーはなぜ燃費にこだわるのかという質問をいただいていますが・・・」

   自動車ジャーナリストの清水和夫はこう答えた。「1997年の京都議定書以降、CO2の問題が社会的に捉えられ、政府もエコカー減税を導入しました。1グラムでもCO2を下げることがメーカーにとって条件になっていったんです」

   辞任を表明した相川社長は、2004年の2度目のリコール隠しが発覚したときは三菱自開発本部のセンター長だった。この時の聴き取り調査で、相川社長はこう答えている。「岡崎(技術センター)にいる社員は狭い中で仕事をしている。この敷地に中だけクローズされていて、僕がよく言うのは塀のなかの懲りない面々」

   三菱自はこの時に企業体質を改め、再生を誓ったはずだったのだが、結局、10年たっても体質は変えられなかった。

モンブラン

NHKクローズアップ現代+(2016年5月18日放送「三菱自動車『燃費不正』の真相」)

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