2024年 4月 16日 (火)

穏やかな最期をケアする「臨床宗教師」患者の話を聞いて一緒に人生の価値探し

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   岐阜・大垣市のホスピス。松岡君子さん(67)は末期の大腸がんで余命わずかと診断された。不安は募り、夫に「1人で死ぬの嫌や。お父さんも一緒にきて」というほどだった。野々目月泉さん(60)が寄り添って、君子さんの話を聞いた。

   「信仰はない。仏壇もない。でも、病気になると、神様、仏様」などと、ごく普通の死生観を口にした。入院9日目、見た夢を語り始めた。「阿弥陀様? お釈迦様? 後ろにいっぱい立っていてパワーが光っていた」。野々目さんは死を迎える準備が始まったサインと見た。そこで手紙を書いて枕元で読んだ。「光に包まれて旅立つその日まで、この世の生をつむぐあなたの戦いを、私は美しいと思います。心からエールを。そして感謝を」

   目をつぶって聞いていた君子さんが「ありがとう」と繰り返した。その2日後、君子さんが呟いた。「紫の海の上で、月の光に照らされながら、少しづつ上がっていきます。嬉しくて、嬉しくて、ありがとうございます。そういう気持ちにさせていただいて」

   看取った夫は「眠るように、潮が砂浜に吸い込まれるように逝ったよ。絶対幸せだった。間違いない」と言う。

   野々目さんは浄土真宗の僧侶で臨床宗教師だ。医師、看護師とチーム医療の一員として、末期患者が穏やかな死を迎えるようケアにあたる。「患者の話を聞いて、理想の死のイメージを探り、その人がすがりたいものとつなぐ役割ができたらいい」と語る。

必要とされながらまだ40都道府県に200人

   日本で昨年亡くなった人は130万人。多死社会に突入したといわれる。末期の患者の苦痛のうち、肉体的、精神的なものは医療が受け持つ。社会的苦痛(家族、金、仕事)にはソーシャルワーカーなどがいる。しかし、死への不安など「スピリチュアル」な苦痛に答える専門家はほとんどいなかった。臨床宗教師は患者の話を聞くことが中心だ。

   東日本大震災で遺族のケアに宗教者が寄りそう姿を見て、宮城の医師・岡部健さん(故人)が提唱した。2012年に東北大で養成が始まり、その後、8大学に広がった。現在、40都道府県に200人がいる。穏やかな死を導く専門職だが、まだ知られていない。

   全国組織「日本臨床宗教師会」もこの2月に発足したばかりだ。顧問に就いた医師の田中雅博さん(70)は自らもがんで余命2か月といわれながら、臨床宗教師の必要を説いて回っている。都内で開かれたシンンポジウムで「話を聞いて、人生の価値に気づいてもらうことだ」と熱く語った。

   僧侶の資格を持つ。若い頃はがん治療の最前線にいたが、患者の死への不安を取り除けない無力感を常に感じていた。平成6年に栃木・益子町に診療所を開いて、仏教の教えで末期患者に寄り添う試みを始めた。話に耳を傾け、人生の価値を一緒に探す。これまでに500人以上を看取った。2年前、末期のすい臓がんとわかり、肝臓やリンパ節にも転移していた。「自分の番が来ると、怖いし苦しみでもある。誰も聞いてくれないまま寂しく死んでいったら、これほど辛いことはない」

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