鬼太郎が嫌いだった水木しげる!! 見つかった日記に書いてあった本音とは

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   1年前93歳で亡くなった漫画家の水木しげるさんの仕事場から、未発表の日記が見つかった。スライド式の本棚の奥に、「水木しげるの日記類(重要)」と札が貼ってあった。見つけた長女の尚子さんは、「貼ってあるから、見ていいよ、ってことですよね」という。これがとんでもないものだった。

   日記は、1960年代から30年分。すでに「河童の三平」「悪魔くん」などで売れっ子で、「墓場鬼太郎」にかかる頃からだ。鬼太郎についての走り書きがある。「怪奇 鬼太郎犬」は、毛の長い犬の姿。また、顔が風呂敷みたいに大きくなって相手を包むとか。これらは漫画にはならなかった。

   我々のイメージは「ゲゲゲの鬼太郎」だ。可愛げのあるヒーロー。だが、初期の鬼太郎のイメージは全然違う。片目がつぶれていて不気味。幽霊族の末裔という設定だった。

   伝記を書いた足立倫行さんは、「水木さんは、好きなキャラで鬼太郎をあげたことはない。妖怪退治の鬼太郎なんて発想はなかったと思う」という。

   日記の間に講談社の編集者の手紙があった。「もっと合理的に」「もっと簡略化した方が」「わかりにくいストーリーはぜったいにさけてください」などとある。足立さんは、「人間を助けるスーパーマンになった。彼が本当に描きたい作品世界ではないかもしれない」という。では、どんな世界を?

「人間の味方をする妖怪、ひねくれている」 「日本は妖怪後進国」

   日記には、「妖怪解放軍団」が出てくる。「今のように人間に隠れているようでは、妖怪の地位の向上もない。日本が唯一の妖怪後進国であるのは、鬼太郎のせいです」とある。実際の漫画でも、鬼太郎が散々痛めつけられるシーンがある。妖怪が「人間の味方をするなんて、ひねくれた妖怪だな」という。

   編集者や世の中の期待と、自分が描きたいものが違う? 「劇画制作機」というスケッチがあった。歯車があって、カラカラと回っているだけ。精神科医の名越康文さんは、「歯車というかベルトコンベアというか、追い立てられる生活から抜けたら、どこまで沈むか」と読む。

   72年10月旅に出ていた。雑誌編集者の有川雄二郎さんが同行して、女性向けのイラストを頼んでいた。訪れたのは福島・会津の小さな村のお堂だった。水木さんは、仏像には目もくれず、「だきつき柱」を見つめた。

   日記には「抱きつくと、死ぬ時に苦しみなしにコロリと死ねる。柱が手垢にまみれて、よほど古来多くの老人が撫で回したのだろう」とある。出来上がったイラストも「だきつき柱」だった。有川さんは、「商業主義への抵抗もあったろうし、俺はそういうもんじゃないよと、原点に戻ろうとするものだったかも」という。

   親交のあった小説家の京極夏彦さんは、「ヒーロー、勧善懲悪で見るのは勘違い。鬼太郎よりむしろアンチヒーローのねずみ男の方が際立っている」という。「40年50年前は、妖怪という言葉も通じなかった。それを浸透させるには、鬼太郎を成功させなきゃいけない。不本意なものを描いているフリをしていたんじゃないか」

   戦争体験は水木さんと切り離せない。21歳で召集され、ニューギニアで部隊がほとんど全滅する中、左腕を失いながら生き延びた。その水木さんがヒットラーを描いた。なぜか。制作に携わった呉智英さんは、「ヒットラーはある意味、究極の絶対正義。でも人間はもっと多面的、複雑なものだと、絶対的な価値観への異議申し立てだった」という。

「幸福はそこにあるもの」という人生観

   たどり着いた決意も記されていた。「全国民一丸となる必要はない。自由に独自な生き方をしていい......なんでも最後は自分でやるという決意が何より大切だろう」

   京極さんは「水木さんの幸福の捉え方が我々とちょっと違う」という。「幸福は手に入れるものじゃなくて、そこにあるもの。我々には見えない、見ていない。好きなことをして生きていこう。そのためにはどんな苦労も惜しまない。そこに幸せがあると」

   亡くなった時に出したハガキも、鬼太郎とねずみ男のイラストに「好きなことをやりなさい」だった。そういえるなんて、なんと幸せなことか。自宅の食卓には今も水木さんの椅子がそのままだ。

   「ゲゲゲの女房」布枝さんは、「帰ってくるような気がするんですよ、今でも」という。まあなんと幸せな。でも、日記にあったな。「あなた、何ぼんやりしてたの。妻に叱られてハッと気づく」と。

ヤンヤン

クローズアップ現代+(1月5日放送「オイ鬼太郎!ワシの幸福論を聞いてくれ ~未公開 水木しげるの日記~」)

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