<僕らのごはんは明日で待ってる> 
なんだか幸せなものを見たような気がする青春映画 交わる人の温かさで生まれ変われる

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   高校生の頃に見ていたら、こんなに「いいな」と思わなかったかもしれない。もしかしたら自分の身にも起こるかもしれない、地に足の着いたラブストーリー。凡庸なキャラクターという意味ではない。本当にクラスにいたら結構エッジはきいている方だけれど、「こんなヤツ絶対おらんやろ!」にはギリギリならない。うちのクラスにもいたかもしれない。本当に、いいところをついたふたりなのだ。

   中島裕翔演じるハヤマは、テンション深海級のネガティブ男子。そんなハヤマに熱烈にアプローチする、ポジティブKY風味女子・カミムラを演じるのは新木優子。ルックスだけだと、「残念女子」「残念男子」にはなりえないふたりなのだけれど、ここに原作そのままの文語体のようなおかしな話し言葉がずばっと決まる。「あ、しゃべると残念な美男美女だ...」。不思議なリアリティすら沸いてくる。

   最初はカミムラの熱烈なアプローチから始まった恋だった。けれど、そのまっすぐさ、潔癖さに、ハヤマが塗り替えられていく過程が、物語の序盤に、丁寧に描かれる。学校帰りのケンタッキーで、「鶏肉はキライなのに、ケンタッキーは食べられるのはなんでだろう?」と首をかしげる姿。歩道橋の上から大きな声で自分を呼ぶ笑顔。「人の85倍の母性にあふれている」といたずらっぽく微笑む様子。じつは、兄を失った辛さから、人と交わることを恐れていたというハヤマの心がとけていくのも大納得だ。

  • (C)2017『僕らのごはんは明日で待ってる』製作委員会
    (C)2017『僕らのごはんは明日で待ってる』製作委員会

実は「弱かった」カミムラ

   一転して中盤は、太陽のようだったカミムラの「弱さ」がクローズアップされる。おばあちゃんに「別れた方がいいと言われたから」とあっさりハヤマを振り、「これでよかったんだ」と一人で大納得。意味がわからないとすがるハヤマには「これ以上しつこくしないで?」とストーカーのごとき扱い。カミムラの明るさは、弱さの裏返しだった。母親が不倫のすえに出来た子どもで、幼少期に捨てられたというトラウマから「諦め上手」なだけ。仕方ない、これでよかった、と自分に言い聞かせているうちに、本当にそんな気がしてきてしまう。

   ハヤマと別れた後、ショックを受ける現実に直面し、消耗して行くカミムラ。そこに、人が変わったようにがむしゃらに関わり続けていくハヤマ。理不尽に拒絶されても、投げやりに扱われても、そばにいる。ただ甘やかすだけでなく、「自分に向き合ってくれ」と言いつつ、しっかりと横に立ち続ける強さ。 ラブストーリーという立てつけの裏にあったのは、ハヤマの「救われ、救い返す」物語。弱っている人も、交わる人の温かさで、生まれ変われる。一緒においしいものを食べること、楽しい会話を重ねること、温度が移る距離でくっつくこと。二人で通ったケンタッキー、歩きながらあおったポカリスウェット。時間薬が本当の意味で染みわたっていく過程が嫌味なく、丁寧に描かれていることが、一番の魅力だ。

   鮮烈で、何度も観たい、というのではないけれど、好きな人とご飯に行きたくなる。中身は覚えていなくても、なんだか幸せなものを見たという感覚は、お腹いっぱいの満足感に良く似ている。

ばんぶぅ

おススメ度☆☆☆

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