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大橋巨泉さんも失敗した「在宅医療」専門知識もコミュ力もない素人医師たち

   昨年(2016年)亡くなったタレントの大橋巨泉さんの妻の寿々子さんは、夫の最期を「思い描いたものと違っていました。いまもって悔しくて」と語る。10年以上前にガンと診断され、入退院を繰り返していた巨泉さんは、最後に在宅医療を選択した。「歩いて車に乗って帰ってきて、書斎に入った。仕事もできると希望に燃えていたんですよ」

   ところが、在宅医療の医師は「どこで死にたいですか」と聞いたのだ。寿々子さんは「その瞬間、夫が小さくなっていくようでした。がっかりして」という。この日を境に、急激に食欲が落ち、生きる気力さえ失ったかのように、やがて体調を崩して再入院。3か月後に息を引き取った。

   当の医師は「病状が重いと聞いていたので・・・。認識が違っていた」と謝罪したが、寿々子さんは「大事な最後の時間をそんな状態で亡くなって欲しくないですね。日本中こうなんでしょうか」と嘆く。

診療報酬高く専門資格も不要

   在宅医療を選択する人は増えている。病院と違って生活を支える面がある。訪問診療、24時間の緊急対応、最期の看取りまで含む。しかし、2015年に129万人だった死亡者は40年には160万人に増加する見込みで、国は在宅医療を促進している。国全体の医療費が削減できるからで、引き受ける医者を増やすために、在宅の診療報酬を高くし、専門の資格も不要とした。その結果、在宅ケアの幅広い知識や経験のない、能力が伴わない医師も目立つようになった。

   脳梗塞の夫に在宅医療を選択した妻は夫の床ずれを在宅医療医師に相談したが、対応してもらえず、症状が悪化して病院に入れた時は手遅れで、左足の壊死・切断に至った例もあった。在宅医療を行う診療所は1万4000あるが、認知症の家族を対象にしたNHKのアンケートでは、「医師に不満」「やや不満」が合わせて17%あった。「満足」40%、「どちらかといえば満足」43%だが、この17%%は実は大きい。

   ゲストの在宅医で全国在宅療養支援診療所連絡会の新田國夫会長はこう話す。「医療はコミュニケーション能力が第一です。とくに在宅だからというわけではありません。だから、この数字は残念です」

日ごろから「かかりつけ医」を作る

   国は今後10年で在宅医をさらに30万人増やそうとしている。そのための教育システムも研修も行われているが、在宅医療の核となるのはかかりつけ医だと新田会長はいう。その地域の開業医に負担がかかっている。鹿児島市の人口5300人の地区で唯一の診療所を営む森永敏行さんは、毎月の患者500人、在宅30人を担当する。朝8時半から夕方6時まで、手の空く時間はほとんどない。在宅に向かえるのは午前と午後の診療の間のわずかな空き時間だ。

   取材の時、102歳の女性を訪ねた。しっかりした女性だったが、森永さんは家族といざという時の対応を話し合った。呼吸や意識に異常が起こったらすぐ救急車を呼ぶなどだ。息子も了解した。この女性は今月2日(2017年2月)の深夜、救急車で病院に運ばれ亡くなった。森永さんは「1人で看取りまで対応するのは限界がある」と話した。「全国でこういう医師が頑張っているんです。さらに作る必要があります」(新田会長)

   三重・四日市は在宅医療を支える開業医の負担を軽くするため、在宅に特化した診療所を作って、24時間対応が必要なガンなどの患者を引き受けた。開業医は手の空いたことで新たな在宅医療を広げている。東京ではさまざまな専門の在宅医が症例検討会を開いて互いに補い合う試みをしていた。さらに、診療アシスタントという専門スタッフを養成して、医師とは別の目、とくに生活面で患者を見るメリットが言われていた。

   昔から「いい医者に当たるのも寿命のうち」という。

クローズアップ現代+(2017年2月16日放送<家で最期を迎えたい~広がる在宅医療の陰で~>)