2024年 4月 24日 (水)

「勝つために何でもやろう!」自分のスタイル捨て、勝ちに行った稀勢の里

   夜7時の全国ニュースから転じた武田真一キャスターの初回放送は、大相撲春場所で大逆転優勝した新横綱・稀勢の里の最後3日間を追った。若乃花以来19年ぶりの日本出身横綱は、優勝争いの最中にけがをした。そのとき何があったか、強行出場してから前へ出る相撲スタイルを変えたのはなぜか、稀勢の里自らに語ってもらった。

   稀勢の里は13日目、横綱日馬富士との一戦で土俵下に押し出された際、左腕を押さえて、これまで見せたことがないほど顔をゆがめた。いま振り返ると「腕か肩か、どこが痛いのかさえわからなかった」という。

   相撲界に入って15年間で1日しか休場したことがない稀勢の里の大ピンチだった。弟弟子の高安は「あんな顔を初めて見て、びっくりしました」と話す。翌14日目の出場が危ぶまれた。

   それを強行出場した。稀勢の里自身は「痛みはほぼなかった。大丈夫という気持ちだった」という。元若の里の西岩親方は「新横綱で日本中から注目された場所だった。普段なら休場したかもしれない」と推察する。1回だけの優勝で横綱になり「甘い昇進」の声もあった。連続優勝に期するものがあったのかもしれない。

   先代師匠の元横綱隆の里から学んだ相撲哲学の影響も指摘される。隆の里は病を抱えながら昇進し、努力する姿が「おしん横綱」といわれ、新横綱で優勝している。稀勢の里は最後の瞬間まであきらめないことを叩きこまれた。「土俵際の俵を大事にする。自分に甘えない」という気持ちの原点だ。

横綱の責任「気力で頑張ろう」

   元横綱大乃国の芝田山親方は「横綱になる前と後ではプレッシャーがまったく違う。責任を負ってやらなければいけない。休むわけにはいかなかったのだろう」と言う。稀勢の里自身は「上がったときの場所を気力で頑張ろうと思った」

   相撲ファンとして知られるマンガ家やくみつる氏は「あと2日の気持ちはあったろう。それ以上に自分が主役だとの強烈な矜持があった」と見た。

   ところが、その14日目の鶴竜戦で、左腕に力が入らず、一気に寄り切られてしまった。これで優勝を争っていた大関照ノ富士に星一つリードを許した。カメラはこの夜、左腕に大きなアザがある稀勢の里の姿をとらえた。

ギリギリの選択迫られる

   武田キャスター「前へ出る自分の相撲スタイルを貫くか、ギリギリの選択をせまられました」

   稀勢の里は「勝つためにやれることは何でもやろう。やれるところだけを動かして勝つという気持ちでした」と振り返る。まっ向勝負を信条としてきた男のまさかの変化だった。

   千秋楽の照ノ富士戦は、立ち合いから変化をつけて勝ちにこだわった。優勝決定戦では押しこまれながらの土俵際、右からの小手投げを放った。「ああいう相撲しかなかったのが悔しい。もうやらない。本当は万全な体でとることが務め」と言い切る。

   芝田山親方は「14日目の負けで気持ちが切り換わった。そこに横綱魂が出た」と解説する。やくみつる氏は「ギリギリの現実的対応を考えたのかもしれない」と受けとめた。

無粋な応援が目立った場所

   ここで鎌倉千秋アナが視聴者からの「日本人だからとクローズアップされるのには違和感がある」という投稿を紹介した。さらにモンゴル出身の照ノ富士に対して出た「ブーイングや罵声は聞きたくない」という指摘も寄せられた。長年日本人力士に土をつけてきた外国勢、格下力士にまでやたらと張り手を飛ばすモンゴル出身者もいて、反発が広がっていることは事実だろう。それでも身びいきのいきすぎた面が、この場所はたしかに噴出した。「どう考えますか」と武田キャスターが問いかける。

   やくみつる氏は「もう一回、応援そのものを考えたらいいのでは。仕切り前の段階で起きた稀勢の里への手拍子も不粋。相撲は世界に発信されているのだから」と、注意を促す。芝田山親方は「礼に始まって礼に終わる。真剣に稽古をさせて本場所にもっていきたい」と強調した。

   武田キャスター「われわれも真剣勝負に真摯な応援を送っていきたいと思います」

   男っぽい内容に仕上がった。「稀勢の里は素晴らしい」の一点張りで終わらせずに応援のまさに「不粋」な問題点までとり上げた放送姿勢は、高く評価できる。NHKらしくないと言ってはいけないが、毎場所、午後の長い時間をかける独占中継の現場でも、この意識を持ち続けてほしいものだ。

クローズアップ現代+(2017年4月3日放送「稀勢の里優勝 知られざる最後の3日間」)

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