サッカーW杯シリア代表「英雄か裏切り者か」アサド大統領が強権で選手かき集め

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   来年6月(2018年)、ロシアで開かれるサッカーW杯の出場チームが次々と決まるなか、初出場を目指して快進撃を続けたシリア代表は内戦の陰を引きずり、「裏切り者」と非難を浴びる選手も出た。ナンバー10をつけるキャプテン、フィラース・ハティーブ選手もそのひとりだ。クウェートのプロチームに所属し、シリア代表の中心選手だった。かつて反政府勢力の集会で「内戦が続く限り代表としてプレーはしない」と宣言して英雄になったが、この3月(2017年)に代表に復帰し「アサド大統領が見守ってくれるのは名誉だ」と立場を一転させた。

   トルコの難民キャンプで観戦した元代表のフィラース・アルハリさんは、「彼は尊敬する選手だった。代表としてプレーする姿には心が痛む。チームがすべての国民の代表であれば代表のそばに立つ。しかし、肉親を奪われた記憶は消えない。今のままでは不可能です」という。

   ハティーブ選手に何があったのか。「家族のためです。6年間も会えなかった家族が帰ることを望んだんです。理由は複雑で説明できません」と語った。アサド政権は海外にいる主力選手の呼び戻しをしていた。家族に圧力をかけられた選手もいると言う。

難民は「彼らはわれわれの代表チームじゃない」

   オーストラリアとのプレーオフ第1戦で1点リードされた後半40分、シリアはPKを得た。キッカーはオマル・スーマ選手。サウジ・リーグで得点王のストライカーで、代表復帰した4人のうちの1人だ。これを決めてシリアは土壇場で追いついた。試合は延長引き分けに終わったが、代表復帰した選手らは「困難の中のシリア人のあるべき姿だ」と評価された。しかし、トルコの難民キャンプでは「アサド側に戻っただけ。代表とは思わない」と冷ややかだった。

   日本でネット観戦したシリア難民のヤセル・ジャマル・アルディンさんは、「日本では政治とスポーツは別物ですが、シリアではそうではありません。いつかW杯代表を国民がこぞって応援するようになりたい」と話す。ハティーブ選手は「政府のためではなく、すべてのシリア人のためのチーム。シリアが私を必要とするなら、それに答える最初の人になる。かつてのように平和に暮らすために」と説明するが、簡単には受け入れられそうもない。

政治に利用されてきたサッカー

   元サッカー日本代表主将の宮本恒靖さん(ガンバ大阪U-23監督)は「難民キャンプで観戦している人たちの姿が印象的でしたね。子どもたちも見ていた。今後シリアが変化するきっかけになればいい」と話す。。ジャーナリストの木村元彦さんは、内戦に引き裂かれたイビチャ・オシム(旧ユーゴ監督)や反政府のまま代表を続けてW杯で優勝したアルギレス(アルゼンチン)の例を引いて、「サッカー選手としてのアイデンティティーと判断を尊重すべきです。見る側のリテラシーを育てないといけない」と強調した。

   宮本さんがボスニア・ヘルツェゴビナに設立したスポーツ・アカデミーの映像が流れた。かつて内戦で敵対した異なる民族の子どもたちが、一緒にサッカーをしていた。シリアにそんな日が来ることはあるのだろうか。

   *NHKクローズアップ現代+(2017年10月12日放送「"英雄"か"裏切り者"か サッカーシリア代表の真実」)

文   ヤンヤン
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