2024年 4月 20日 (土)

日本の民主主義が捨てられた10・22 政権による「メディアの大虐殺」が始まる

   正岡子規の「悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事である」という言葉を机の前に貼って眺めている。ジョージ・オーウェルの『1984』を読み返している。

   22日(2017年10月)の夜8時、NHKが「自公で3分の2を占める模様」と開票速報を流して以来、気力が萎えて戻らない。

   その日は昼頃、私の出た小学校にある投票所へ足を運んだ。雨脚は強かったが、いつもより人の数は多かったように見えた。多くは高齢者たちだったが。

   東京の雨は降り続いたが、風はさほど強くなかった。この雨で無党派層と呼ばれる「無関心な連中」が投票に行かなくなり率は下がるだろうが、期日前投票が史上最高だったというから、前回程度はいくのではないか。

   競馬・菊花賞では、私がこの欄で本命に予想したキセキが史上最悪の不良馬場を克服して勝ってくれた。

   選挙結果に希望はないが"奇跡"が起こってくれないかと祈っていた。想像以上の自民党の大勝だった。

   週刊ポストは特集「ニッポン『絶望の近未来年表』」のリードでこう書いている。

「今回の総選挙でこの国に"自民党永久政権"ともいえる政治体制が出現し、有権者が声を上げる機会さえ失われてしまうかもしれない。主権者を恐れなくなった政治家は驕り、役人はますます忖度し、権力はどこまでも腐敗していく」

   翌日の産経新聞はまるで「祝! 安倍首相」特集号のようであった。

   編集局次長兼政治部長の石橋文登は一面で、「首相の強運を生かすとき」だと激励する。

   石橋も、小池の希望の党ができた時、安倍は「さぞ肝を冷やしたことだろう」。反安倍勢力が結集するとどうなるか、「悪夢が首相の脳裏をよぎったに違いない」と書く。だが、小池の自分の政策にイエスといわない者は「排除する」発言で、「首相に幸運の女神がほほ笑んだ」

   産経でさえ「敵失による勝利といえなくもない」といっている。だが、この得た数で、「北朝鮮有事は『対岸の火事』ではすまない。情勢次第では改憲が喫緊の課題となる可能性もある。首相は、自らの強運を信じて国民に発議する機会をうかがうべきではないか」と、運だけで知恵もビジョンもない安倍首相を後押しするのである。

   二面の「主張」はもっと過激である。韓国にいる日本人や米国人を迅速に避難させる「非戦闘員退去活動」や武装難民への対策を早急に講じ、「ミサイル防衛の充実にとどまらず、敵基地攻撃能力の導入や防衛予算の増額への政治決断も求めたい。その中には、覇権主義を強める中国への備えも含まれるべきである」と、まるですぐに戦争が始まるかのような書き方である。

   だが、ため息ばかりついてはいられない。これから安倍政権が始めるのは間違いなく、これまで以上の「メディアへの締め付け」である。

   これまではポチと非・反安倍メディアを選別しているだけだったが、これからは間違いなく、すべてをポチ・メディアにするための「メディアの大虐殺」が始まる。

   政治を私物化してきた安倍だが、森友・加計学園問題で、まだ自分に歯向かうメディアや木っ端役人がいることを知ったはずである。

   こいつらを根絶やしにする。自分が法律だと国会でほえた妖怪は、自分は天皇をも超えた「ニッポンの王」であるといいたいに違いない。

   言論表現の自由など吹き飛び、政権をバカ呼ばわりする夕刊紙や一部の週刊誌は、不敬罪を成立させて獄に放り込まれる。

   私は死ぬまで10月22日という日を忘れない。日本の戦後が忘れ去られ民主主義がぼろ雑巾のごとく捨てられたこの日を。

   前置きが長くなったが、書いておかなくては死ねない。そんな思いが溢れているのでお許しを。

   今週発売の週刊文春も週刊新潮も、選挙特集を組んではいるが、読むべきものはない。私は「私たちが安倍自民党に入れた本当の理由」という対面インタビューを読んでみたい。入れる政党がなかったから自民党だったのか。どういう対立軸ができれば、自民以外の政党に入れようと思うのか。新聞を含めて、選挙後の検証はたいていお粗末だから、ぜひ、どこかでやってほしい。

   テレビ東京・池上彰の選挙特番も、自民の圧勝の前に、いつも見せる池上の鋭い突っ込みは見られず、他の番組と同じ凡庸なものだった。

   印象に残ったのは、インタビューに答える安倍首相の表情が、大勝したにもかかわらず暗く、どこか怯えているように見えたこと。共産党の志位委員長が、自分の党の候補を引っ込めて立憲民主党へ力を貸したことで、自党の当選者を減らしたことについて聞かれ、きっぱりと、立憲民主党が躍進したことを喜び、これから立憲との共闘を進めていくといったことである。

立憲の新人、青山雅幸議員のセクハラ疑惑

   さて、週刊文春が、今回躍進した立憲民主党・枝野幸男代表の盟友が、女性秘書にセクハラを繰り返していたと報じている。

   告発されているのは立憲の新人、青山雅幸議員(55)。青山はB型肝炎訴訟や浜岡原発廃炉訴訟などに携わった人権派弁護士だという。枝野とは東北大学で同じ法律系サークルに所属して以来の友人らしい。

   20代半ばの元秘書・山田麻美(仮名)によれば、昨年4月に青山が代表を務める法律事務所に入所したが、6月ごろから食事に誘われるようになったという。

   多いときは週1ペースで誘われ、タクシーで移動するときに手を握ってくるようになった。

   昨年(2016年)8月、別の秘書らと3人で県北地域に出張した際にも、秘書がいない隙に、「青山先生がハイハイをしながらこちらへ寄ってきた。恐くなったので、近くにあったざぶとんを抱いてガード。頭をなでられた。身の毛がよだつほどの恐怖だった」(山田)

   その後も、抱きしめられたり、食事中に「なんで冷たくするの? 優しくしてよと」と手を握る、エレベーターの中でキスを迫られたなど、エスカレートしていったという。

   週刊文春の直撃に青山は、一連のセクハラ行為を否定し、山田を「彼女は人をハメル人。あのね、ウソをつく人の特徴は一部は事実なの。でもその事実を膨らませるわけよ」と非難し、名誉棄損にもなると仄めかしている。

   彼女は、身の危険を感じて、ノートを付け、メールや音声も残していた(週刊文春デジタルで動画を有料配信中)。青山議員に分が悪そうだ。

首相夫妻が結婚するまで

   やはり週刊文春に、安倍晋三と昭恵のお見合いをセッティングし「キューピッド役」を果たした濱岡博司元山口新聞東京支局長の思い出が載っている。

   安倍の父親・晋太郎から、神戸製鋼にいた息子の安倍が、後継者として自分の事務所に来るので盛り立ててほしい、秘書からは、「(晋三氏は)人見知りが激しいし臆病だけど、まあお手柔らかに頼むよ」といわれ、山口県人を中心に始まったのが「晋三会」だという。

   また晋太郎の妻・洋子から「誰かいい人がいたら連れてきて」と頼まれ、出入りしていた電通で、「森永製菓のお嬢さんがいる」と紹介されたそうだ。

   だが、その友人は「彼女の私生活をよく知っているけど、晋三さんに合うかどうかはわかりませんよ」と付け加えたという。

   晋三は昭恵の姿を見たことがあるらしく、「昭恵さんは自分の憧れのマドンナなんだ」といっていたそうで、話はとんとん拍子に進んだ。だが、2人を引き合わせる当日、昭恵は待ち合わせ時間に50分遅れたそうだ。

   交際は順調だったが、安倍がなかなか「最後の一言をいってくれない」と昭恵が濱岡に相談したこともあるそうだ。

   濱岡にいわせると、安倍は「女性に対してはまったく無垢」だそうである。

   子どもはできなかったが、お互い干渉しない主義で夫婦仲は悪くないという。だが、第一次政権の時、昭恵が神田に居酒屋を出した時に濱岡は、「洋子さんから、『二人を離婚させられないか』という相談を受けたことがあります。『居酒屋経営はいくら何でも許せない』ということです」

   嫁姑の問題以外にも、岸信介時代から使えていたお手伝いが同じ家にいるが、彼女と昭恵の仲も悪いそうだ。

   濱岡は安倍にこう苦言を呈している。

「お父さんの晋太郎さんに人脈形成から結婚までお膳立てされ、本当の苦労を知らないのでしょう。だから首相の立場にあっても、他人の言うことに耳を傾けず、拙速に物事を進めているように思えます」

   夫のいうことを聞かず、勝手気ままに振る舞う嫁を苦々しく思いながらも、何もいえず、自分は自分で、人の意見を聞かずに自分勝手に振る舞う似た者同士。

   この2人を結び付けているのは、権力という実体のない摩訶不思議なものでしかないのだろう。それを失った時、2人の絆は脆く解けてしまうに違いない。

横田めぐみさんの「消息」

   週刊文春ばかり続くがご寛容を。北朝鮮に拉致された横田めぐみの「消息」が、政府の極秘文書が解禁されたことで「わかった」かのように週刊文春が報じている。

   この文書は、04年に拉致問題対策本部事務局の前身である「内閣官房拉致被害者・家族支援室」が、蓮池薫夫妻、地村保志夫妻、曽我ひとみら5人から聞き取り調査をし、分析したものだという。

   残念ながら、横田めぐみについての確度のある新情報は、私が読む限りない。

   横田めぐみが拉致されてから40年もの月日がたった。彼女ももう53歳になる。母親の横田早紀江は、トランプ米大統領が拉致問題に言及し、11月5日に来日した際、横田夫妻たちと会うことになったことを、「本当にありがたいことです」といっている。

   だが、中国・習近平が強力な一強体制をつくりあげ、ロシアのプーチン大統領も北朝鮮への関与を強めている今、武力攻撃をほのめかして圧力をかけるだけのトランプ・安倍連合ができることは限られている。

   圧力をかけながら対話の道を模索することができなければ、この危険な膠着状態が続くだけだろう。

神戸製鋼はそんなに悪いのか?

   最後に、週刊新潮らしい視点の記事を1本。「神戸製鋼はそんなに悪いのか?」という記事である。

   アルミ・銅製品だけでなく、鉄粉や液晶画面材料、鋼線、ステンレス鋼線へと広がる「検査データ改竄」は、それを使っている鉄道、自動車、航空機メーカーなど500社以上に影響が出るのではないかといわれている。

   しかし週刊新潮が取材してみると、被害者であるはずの顧客企業のほうが、むしろかばう方に回っているというのである。

   自動車業界の関係者がこう話す。

「神鋼の問題はコンプライアンス(法令順守)と安全性を分けて考えたほうが良いと思います。たとえば問題になったアルミ製品はスポーツカーなど高級車のボディパネルに使われることが多いんです。しかし、データが改竄されていたからといって走行中にパネルが剥がれたりなんてことはあり得ない。また、エンジンの部品にも神鋼のものが使われていますが、メーカー側が求めている元の規準が厳しいということもあって、問題にするレベルではない」

   今回、自動車メーカーが車種を発表していないのは、安全性に問題がないから、リコールせずに静観するのが一番いいと考えているからだというのだ。

   さらに、これから普及する電気自動車にはアルミの合金が不可欠だが、それを自社生産しているのは神鋼だけという事情もあるという。

   東芝の二の舞はないというのだ。だが、今以上のデータ改竄が明るみに出てくれば、わからないだろうが。(文中敬称略)

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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