<シェイプ・オブ・ウォーター>
「オペラ座の怪人」より「美女と野獣」より、もっと愛に溢れた美しいファンタジー
1962年、冷戦下のアメリカ。言葉を話せないイライザ(サリー・ホーキンス)は政府の機密機関「航空宇宙研究センター」で清掃員として働いていた。ある日、一体の生物が研究センターへ運び込まれる。生物はアマゾン川で現地人に神と崇められ「半魚人」と呼ばれるクリーチャーだった。イライザは手話を使い、次第にクリーチャーと心を通わせていく。しかし政府機関により、クリーチャーは解剖されることになってしまう。イライザは友人たちと、クリーチャーを救おうと、脱出計画を企てる。監督は「パンズ・ラビリンス」「パシフィックリム」のギレルモ・デル・トロ。本年度アカデミー賞、作品賞、監督賞など主要4部門に輝いたファンタジー・ラブストーリーだ。
ヒロインと半魚人、言葉を持たない者同士だから感情が豊か
半魚人のクリーチャーと人間の女性の恋を描いた、複雑なファンタジー作品なのかとは思えば、話はとてもコミカルで、まるでフランス映画のようにオシャレ。クリーチャーと主人公イライザが分かりあうまで、さほど時間はかからない。始まってすぐに「もうクライマックス?」と思わせる程、物語はテンポよく進んでゆく。
イライザは孤児で言葉を話すことが出来ず、幸せな生い立ちとは言えない。しかしそんな彼女に悲壮感はなく、いつも明るくてチャーミングだ。隣に住む友人でゲイの画家、ジャイルズの家で一緒にテレビを見て、微笑みながらタップを踏む。音楽とダンスが好きなのだ。それはクリーチャーにも言える。二人は互いに音楽を愛し、とてもユーモラスだ。生身の人間以上に感情が豊かなのだ。言葉を持たない者同士だからこそ、わかり合えることがある。それを観客に痛いほど教えてくれる。グロテスクな一面もありながら、クリーチャーに目立って見えるのは人間らしさだった。
そしてこの物語には、可哀想な登場人物は一人も出てこない。みな現実に向き合いながらも幸せに暮らしているからだ。イライザの周りにはマイノリティーと呼ばれる人たち、同僚の黒人女性ゼルダや、ゲイの友人ジャイルズがいる。だが、みな心優しいく、イライザのよき理解者であり魅力的だ。ゼルダは夫との夫婦生活の愚痴を、いつも冗談交じりにイライザに語る。ジャイルズはゲイで、片思いのパイ屋の店員に振られても、とてもポジティブでいつもイライザを笑わせてくれる。
徹底的に嫌な奴だが魅力的な「悪」にアカデミー賞を送りたい
もう一人魅力的な人物がいる。物語では唯一の悪と呼ばれる存在だろう、イライザとクリーチャーの二人を執拗に追いかけ、そして追い詰めていく軍人のストリックランドだ。クリーチャーに指を食いちぎられ、そこが壊死して真っ黒になっても、同情したくない。それ程までに徹底的に「嫌な奴」であるストリックランド。彼を演じたマイケル・シャノンの迫真の演技にも、ぜひアカデミー賞を送りたい。
物語の冒頭「言葉をもたない、プリンセスの話を」と、ジャイルズの語るセリフがある。このセリフの意味が、ラストで深く胸に響く。イライザはプリンセスになったのだ。彼女にとっての王子は、クリーチャーである彼に他ならない。映画「オペラ座の怪人」より「美女と野獣」より、もっと愛に溢れた美しい映画であった。
(PEKO)
オススメ度☆☆☆☆