2024年 4月 23日 (火)

<ラブレス>
ある家族の救いようのない「愛の喪失」自分しか愛せない夫婦の無残

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(C)2017 NON-STOP PRODUCTIONS - WHY NOT PRODUCTIONS
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   12歳の少年アレクセイは学校が終わっても家に帰りたがらず、一人で町から外れた川沿いの森林を歩いている。アレクセイの母ジェーニャと父ボリスは、それぞれ新しい恋人がいて、離婚の話し合いをしている。どちらもアレクセイを引き取りたがらず、自分の再出発だけを考えている。

   アレクセイが失踪しても警察はまともに取り合わず、ボランティア団体に捜索を依頼するが見つからない。

   2018年アカデミー賞外国語映画ノミネート作品で、「父、帰る」「裁かれるは善人のみ」で知られるロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督が、ソ連解体後のロシアの実像を、1組の家族を通して寓話的に描いている。

息子が失踪しても母親は「最初から子どもなんか欲しくなかった」

   物語は徹底的かつ無慈悲に家族の悲劇を描いていく。「Loveless(愛の喪失)」という英題を邦題で「ラブレス」としたのは、筆者は愚行であると感じるが、この救いのない物語に対する救いを求めているのだろう。それぐらいに物語に救いがない。

   母ジェーニャは他人がいる前で平気で息子を殴り、誰といても自撮りに夢中で、結婚しても、不倫をしていても、現状を抜け出すための新たな出会いを求めている。これは、SNS社会が作り上げた「自己愛」の膨張の象徴であり、ロシアの物質的近代化と倫理道徳の後退の象徴なのだろう。

   自己愛の膨張は他者への愛情の欠如につながり、ジェーニャは息子が行方不明になっても、心配するどころか、「そもそも結婚なんてしたくなかった」「子供なんて最初から作らなければよかった」と夫に暴言を吐くことしかできない。夫はそれを聞いても一切感情的にならず、無表情だ。

「愛情を失った人間の末路」を描いたシチュエーション・スリラー

   このモンスターのような夫婦が、現代ロシア人の実像なのかという推測は飛躍しており危険であろう(アカデミー賞にノミネートされた理由かも知れないが)。監督は極端な人物像をあえて作り上げ、テーマを明確にしようと試みている。テーマは子どもを含めた、自分以外の人間=他者への愛情の欠如であり、他者への愛情を失った人間はどのように生きていくか、どのような末路が待ち受けるかを描くシチュエーション・スリラーという評がしっくりくるだろう。

   評論が難しい映画であり、手放しで称賛及び鑑賞を勧められない。この映画は、映画という非現実で捉えるとまったくおもしろくないからであり、自分のこととして見ることで初めてフィクションがもたらす高揚感を味わえる、誠に恐い映画である。

丸輪 太郎

おススメ度☆☆☆

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