2019年 7月 24日 (水)

〈マルクス・エンゲルス〉
貧しい人々のためにペンで戦った若きマルクス 世界を変えた思想は人間くさかった

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映画「マルクス・エンゲルス」(C)AGAT FILMS & CIE - VELVET FILM - ROHFILM - ARTEMIS PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - JOUROR - 2016
映画「マルクス・エンゲルス」(C)AGAT FILMS & CIE - VELVET FILM - ROHFILM - ARTEMIS PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - JOUROR - 2016

   題名が示す通り(原題は『THE YOUNG KARL MARX』)、1848年にフリードリヒ・エンゲルスと共に若き日のカール・マルクスが『共産党宣言』を発表するまでの日々を追った伝記映画だ。

   1843年、ドイツ・ケルンで「ライン新聞」の編集者として活動していたマルクス(アウグスト・ディール)は、政治的理由により、妻のイェニー(ヴィッキー・クリープス)を連れてパリへ亡命する。パリで哲学者プルードンやエンゲルスと知り合い、初期社会主義や初期共産主義思想の影響を受け、プロレタリアート(労働階級)が立ち上がらない限り真の人間の解放がなされないという『共産党宣言』の発芽を生み出す。

   カール・マルクスの生誕200年を記念したベルギー・ドイツ・フランス合作映画であり、ハイチで文化大臣(日本でいう文部科学大臣)を務めたことがある異色の映画監督ラウル・ペックの監督2作目は、マルクスとエンゲルスという近代史における最も重要な思想家の源泉に迫る。

   思想家の伝記映画と聞くと堅苦しいイメージが付きまとうが、ペック監督は、マルクスの人間的な喜怒哀楽を描き、あくまで映像表現で彼らの思想を分かりやすく描いていく。マルクスがどういう人間だったか、当時の欧州の歴史的背景を伝えながら、丁寧に紡ぎとっていく演出は素直に好感が持て、さすが教育機関出身監督といえる。

生活の糧の枯れ枝を拾うことも許されない貧しき人々

   冒頭、ドイツ・ライン州の森林で枯れ枝を拾い集めている農民たちが、突然騎馬警官に暴力を振るわれ排除される。当時のライン州では貧しい農民が周辺の森林の枯枝を拾い集めて薪に使い、生計の足しにすることは習慣的に認められていた。しかし、州議会議員たちが政府に枯枝も森林所有者である地主の「財産」であり、それを拾うのは「窃盗」だと訴え、「木材窃盗取締法」が作られていた。

   マルクスは「ライン新聞」で、検閲をかいくぐり、農民たちが枯枝を拾う行為の正当性を論じる。その論法は簡単にいうと、いったい人間が大事なのか、木が大事なのかというものであり、木の前に人間が果たして屈服してもいいのかというものであった。議員たちの主張は、森林所有者の私的利益の保護だけである。そこには、何が善であり、何が正義であり、何が法なのか、何が裁判の公平なのかは問題にならない。すべて森林所有者の利害だけで決定される。所有者は犯罪者の罰金を自分のふところに入れ、犯罪者の自由を奪い農奴化することになる。

   貧しい人々が、自然力に人間的な親しみを覚え、これを利用する習慣は、貧しい人々の権利であるとマルクスは訴えた。そして、政治的にも社会的にも何も持たない貧しい人々に「習慣法」を渡すことを要求した。しかし、マルクスの言論は封殺され、「ライン新聞」は発禁処分を受け、マルクスはパリに追われた。この枯枝事件をきっかけにマルクスは19世紀最大の思想家となっていくのだった。

   圧倒的な現実に屈することなく思想のエネルギーを実践しようと試みたマルクスの姿が印象的だ。『富の分配』『児童労働』『男女同権』といったマルクスの宣言が扱った主要テーマは、現在も世界が抱えている問題だ。彼の思想は今も我々と隣り合わせに存在している。30歳に満たない若者が、世界を変えるべく情熱を持ち、理想を追求し、思想を作り上げた。「革命」の発端となる熱量を我々に届けてくれる映画だ。

おススメ度☆☆☆

丸輪太郎

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