2019年 11月 16日 (土)

<モリのいる場所>
庭の虫・植物と暮らした画家・熊谷守一と妻・秀子のある1日・・・労苦ともにした夫婦の哀愁と愛おしさ

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   1977年に97歳で亡くなるまでの約30年、昼間は庭の植物や虫を見て回り、夜になると絵を描き、ほとんど自宅の外へ出ることがなかった画家・熊谷守一を主人公に、94歳だった昭和49年のある1日をドキュメント風で描く。

   脚本・監督は「南極料理人」「横道世の介」などの沖田修一。守一を山﨑努、76歳の妻・秀子を樹木希林が演じている。

   新芽に話しかけ、アリの行列を寝転がっていつまでも観察

   守一の家には、守一の写真を撮る若い写真家の藤田(加瀬亮)、看板を描いてもらおうとする温泉旅館の主人(光石研)、クセのある画商(きたろう)など、呼んでもいない客が朝からひっきりなしに訪れる。秀子と姪の美恵(池谷のぶえ)はその対応に大忙しだ。

   それでも守一は、両手で杖をつきながらゆっくりと庭を回り、植物の新芽に「いつ生えた?」と話しかけ、アリの行列を見つけたら寝っころがってひたすら眺め続けている。庭の探検家でありながら、はたから見れば守一自身もまるで庭に生息する生き物のようだ。

   秀子はそんな浮世離れした夫と世間の間に立ち、自宅の目の前で建設が進むマンションのオーナー(吹越満)が怒鳴り込んでくると、「この庭は主人のすべてですから」とぽつりとつぶやく。

   熊谷守一は岐阜の裕福な家に生まれながらも、親に反発して画家となり、実家が没落後はさまざまなアルバイトをしながら画を描き続け、50代でようやく世間に認められるようになった。子供も複数もうけるが、戦争をはさんで次々と死に分かれ、自分たち夫婦だけが生き残ってしまった。

   山崎務・樹木希林さすが!円熟した芝居見るだけで価値あり

   スクリーンでは飄々として見える老夫婦のたった1日だけが描かれているわけだが、その1日の中に二人の深い哀愁や生きることへの感謝が見え隠れする。紆余曲折の長い時間を共にしてきた夫婦ならではの関係性を瞬時に感じさせてくれる山﨑と樹木の演技は、「さすが!」とうなるしかなく、この二人の役者の円熟した演技を観に行くだけでも、じゅうぶん価値のある映画だったと思う。

   結局、家の前にマンションが建つと庭に日が当たらなくなってしまい、夫婦が大切に守ってきた生き物たちの住みかがなくなってしまう。この危機に対して、最後に二人が取った選択が、時流に反発もせず、流されもせず、じつにしなやかだ。役者たちの演技に満足するとともに、守一の実際の作品もむしょうに観に行きたくなった。

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   おススメ度 ☆☆☆☆

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