2024年 4月 20日 (土)

組織犯罪を追い詰めた結果、「貧困暴力団」が新たな脅威に 何でもアリの危険なグループ

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   暴力団に異変が起きている。全国各地で暴力団排除条例が施行されて資金源を断たれ、追い詰められた挙句に、従来の組織を越えた連携に走り、別の犯罪グループと組む動きも出始めた。それがオレオレ詐欺など新たな悪事を生む。市民にも警察にも「新時代」の意識と対応が必要だ。

   北海道の川で身を切り裂かれたサケが大量に散乱した。川でのサケ漁は禁止されているのだが、犯人は卵のハラコを奪っていったらしい。去年(2017年)秋にはハラコ泥棒が孵化場にまで侵入し、ハラコ40キロを暴力団と取引した疑いで男が逮捕された。資金源に窮した暴力団が密漁をやっていた。これまでにはなかったことだという。

万引き、密漁、電力泥棒、生活保護詐欺...カネになるなら何でも

   名古屋では食料品の集団万引き、福岡では電気メーターを改造しての電力泥棒事件も、暴力団が引き起こした。生活保護詐欺やナマコの密漁、けん銃を担保にした借金など、従来資金源としていたテキ屋商売や飲食店から用心棒代を脅しとる「みかじめ料」集めとは異なる行動が続いている。

   7年前から始まった暴力団排除条例が全国にいきわたったことが大きい。市民の資金提供や企業の契約行為を取り締まれるようになった。昭和40年代に組員100人をかかえた暴力団が解散に追い込まれ、最後まで残って解散の連判状に著名したのはわずか4人だったという例もあった。

   関係者は「シノギ(収入)がないからやめた。それがなんといっても一番」「ローンも払えなくなり、暴力団をやっていたら生きていけない」「ガス代も払えず、どん底」ともらす。全国最大の指定暴力団山口組も、いまや貴重な上納金をめぐり分裂が続いた。

   組員の高齢化もある。「昔は若い衆が入ってくると食事は全部面倒見たが、今ではとてもやっていられない」という。長期低落傾向。若い組員が入ってこないから、リーダーが育たず、いまや40代が一番若いという状態だ。

   では、それだけ犯罪がなくなるのか。

   カードを偽造して各地のATMを荒らしまくり18億円を盗んだとして今年(2018年)2月、住吉会関係者が逮捕された。南アフリカの銀行にあった顧客データからハッカーが盗んだ情報が山口組や住吉会、抗争相手の神戸山口組までを経由して、偽造カードが作られ、現金引き出し役の「出し子」に配布されていた。

組のくびきがなくなったために、本格的な犯罪者に

   組織を越えた協力が行われたことに、元組員は「個人で動いた。組とは何の接点もない。誰もが食べられない状態だから、カネになればと声をかけたら集まった」と実情を語る。

   薬物所持で6年近く服役後に去年出所した60代の組員は「半グレと組むこともある」という。半グレとは、組織の看板を掲げず、市民の間に隠れながら悪事を企てる者たちのこと。組織暴力団ではないから、排除条例では摘発できない。組を抜けた者が半グレの犯罪グループと組んでオレオレ詐欺を起こすことも、このごろではよくある。

   犯罪社会学の河合幹雄さんは「条例の副作用としての新犯罪」を心配する。「従来の暴力団は直接市民には手を出さない彼らなりの歯止めがあった」のだが、それがはずされたことで別の犯罪が起きるという。暴力団を取材してきたNHKの伊藤竜也記者は「組員を減らすだけでは犯罪はなくならない」と話す。組織のタガがなくなったことで犯罪がかえって広がる面がある。まるでパンドラの箱を開けたようになりかねない。

   元山口組系の組長で、今は暴力団員の相談にのるNPOを運営する竹垣悟氏は「辞めたいという組員は多いが、犯罪から完全に抜けるのはむずかしい」と話す。出所後に組を辞めても暮らしにこまり、詐欺グループの誘いにのるケースがある。刑務所で服役中に誘われる。

   元福岡県警本部長の田村正博氏は「新しい組織犯罪を念頭に、つぎの段階に入る対策が重要だ」と強調する。河合さんは「組のくびきがなくなったために、本格的な犯罪者になっていくこともある」と指摘している。

   警察の捜査も、これまでなら組員の人間関係から概要を把握できたが、調べの対象を広げないといけなくなった。従来の組を超え、半グレや、NHKの番組では触れなかったが外国人の犯罪集団とつながることも考えられる。新時代の暴力団員を「犯罪に走らせない方策」が改めて求められている。早くしないと対応しきれなくなってしまう。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年5月28日放送「追いつめられる暴力団 新たな犯罪・脅威が...」)

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