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売り手市場どころじゃない「求人氷河期」人材争奪戦で後れ取ったら会社潰れる

   空前の人手不足で、企業の求人、学生の求職が様変わりしている。学生側から企業にアプローチしていたのが、企業側から学生に接近する「逆求人」が広がっているのだ。少子化で日本国内の働き手は2050年までに2500万人減る。5年ごとに300万人が不足するとの推計まである。

   就活の学生9万5000人が登録する「逆求人サイト」では、かつては学生はエントリーシートを何枚も書いて複数の企業に出していたが、いまは学生が書くのは1枚だけで、これをサイトで見つけた企業が学生に連絡する。入社試験を受けるかの決定権は企業でなく学生側にある。

   海外で働きたいと希望している大学4年生の男子はこのサイトに、カナダのバンクーバーで起業しようとしたが、ビザの関係で途中放棄した体験を自己PRとして載せた。「これなら気を使う必要もなく、わかったうえで面接してもらえばいい」と考えたのである。

   さっそく、ベトナムで新規事業の人材を求めるIT企業の人事担当者から「失敗談を聞きたい」と面談の要請があった。他にも8社から申し入れがあり、「手ごたえを感じています」と自信を深めている。

   このサイトを使う企業は5年で40倍に増え、3700社を超した。「ピンポイントで効率よく、会いたい学生に会える」のが受けているらしい。

ミスマッチ離職も増加―企業と学生が匿名見合い

   一方で、就職した3人に1人が3年以内に離職する。「イメージと違う会社だった」「思っていた人材と違った」といったミスマッチだ。これを防ごうというアナログ型の採用イベントもある。

   経営者と学生が会社名や学校名、経歴を隠して参加し、トークを交わす。3時間以上の議論の後、初めて互いのプロフィールを明かし、気に入れば連絡先を交換する。信頼関係の醸成度は濃い。

   関心がほとんどなかった洋菓子メーカーと面接した女子学生は、「ケーキへのモチベーションはまだ低いけれど、続けられるかもしれないという気がしてきました」と話す。経営者側は「正直さがいい。ありのまま感がなんともいえない」と評価する。「仮面をかぶらないことが大事」という点で、思いは一致した。参加学生の20%がここで出会った企業に就職するそうだ。

   千葉商大講師の常見陽平さんは、現状を「採用氷河期」と呼ぶ。「企業に若者が減る危機感があり、人が採れるかどうかが経営上のリスクになっていて、資金提供者たちもそこを見ている」という。

   博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんは「若者の方には、売り手市場なので余裕があるのに対して、企業の方が自分をよく見せようとしている。企業こそありのままを見せる方がよい」と、ミスマッチが起こりやすい状況を指摘する。

   楽しい雰囲気の職場で仕事と生活を両立させたがる若者は、暗い雰囲気やきついノルマを嫌う。「居心地のよい職場を求める若者には、社風がすごく大事です」と原田さん、「そういう若者はけしからぬという方がけしからぬ。熱血タイプの人事担当者は嫌われ、寄り添うタイプが好まれる」と常見さんはそれぞれに指摘している。

社員が友人・知人をスカウトする「ツテ転職」

   新しい採用方式も出始めた。キーワードは社員の「ツテ」だ。「リファラル(紹介)採用」ともいう。社員が転職しそうな友人や知人と会社をつなぐ。「社内をよく知る社員が人を紹介するので効率的です」と人事担当者はいう。

   食品メーカーに勤めて4年になる池嶋真吾さん(28)は、求める働き方ができずに悩んでいるときに、友人から転職話を持ち込まれた。会社に招待され、食事をしてアピールされた。いまは即戦力として、経理の経験を生かして主力商品の会計ソフトを扱って、売り上げ増に貢献しているという。

   人事担当者は「1人の採用で2人とれるわけで、大きな可能性があります。これからも柱にしていきたい」と意欲的だ。常見さんは「転職潜在層に社員を通じてアプローチすることで、人材会社に手数料を払うよりコストを安くできる。ただし、同じレベルの人しか集まらない面がある」と解説する。

   原田さんは「内定した直後から転職先を探し始める人もいる。昭和のような終身雇用感覚は若い人にはない」と、時代の変化を強調する。

   では、新卒一括採用もなくなるのか。常見さんはなくならないと見ている。「さまざまな手段を組み合わせることになるだろう。経営者も変わらないと」

   企業と若者のニーズをどうセットして、ジャストマッチングに持っていくか。少子化で若者が減る時代の試行錯誤は始まったばかりだ。

   *NHKクローズアップ現代+(2018年6月11日放送「"逆求人"に"ツテ転職"!?激変する人材争奪戦」)