2019年 3月 24日 (日)

夢の新薬、人工肉をあなたの手で 日曜大工感覚で手軽にできるバイオ技術の危険な最前線

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   ステーキ味のトマト、人工肉......。遺伝子操作などSFのような新技術を専門家ではない普通の市民が自宅や仲間の実験室で作り出す。こんな「DIYバイオ」の世界が、科学技術のオープン化や開発コストの値下がりで現実のものになろうとしている。

   都内の生物好きの高校生や会社員ら40人が集まるサークルがある。めざすのは動物を殺さずに食用肉を作る技術だ。

   外資系のコンサルタント会社に勤める杉崎麻友さんは、自宅のリビングで鶏肉の細胞培養に取り組む。専門器具はネットで購入したり、扇風機を遠心分離機代わりにするなど手作りしたり。「SF世界を実現する気分が魅力です。自分で未来を実現してみたい」と力が入る。

   こんな日曜大工のようなDIYバイオは、米国が最も進んでいる。米国ニューヨーク市で会社経営する男性は5年前から「この世にない植物をつくろう」と、自宅に実験室を設けた。たんぱく質をトマトに入れて、ステーキ味のトマトができあがったそうだ。

1万7000円で手に入る遺伝子解析キット

   今は、自然界にはない青いバラ作りに、遺伝子改変の技術を駆使してとりかかっている。青い貝の遺伝子をバラに取り込むつもりだ。米国では部屋から持ち出さない限り違反にならない。男性は「ネットですべてを学んだ。偉大な力を与えられた気持ちで、もっといろいろな新技術に挑戦したい」と意欲を語る。

   遺伝子を解析するコストは、この17年で8万分の1に下がった。実験器具も159ドル(約1万7400円)でひととおり揃うキットを誰でも購入できる。「ブロック遊びのようなもの」と、13歳の中学生までが参戦している。

   米国カリフォルニア州の男性、ジョサイア・ザイナーさん(37)は去年(2017年)、筋肉成長遺伝子を自分に注入する模様をネットに公開した。「いかに簡単に操作できるかを世に伝えたかった。すごいことじゃないか」という。

   こうした傾向に、米国医学界では「専門的裏付けがないやみくもな実験は、想定できない副作用のリスクがある」との懸念が広がる。自分の体を使う遺伝子実験に、米国ではまだ法規制がない。

   早稲田大学の岩崎秀雄教授(細胞生物学)は「人体実験はグレーゾーン。人に安易に勧めることはできない」と言いつつ、「一方で、バイオテクノロジーのデモンストレーションの面もある」と指摘する。

   科学を市民に開放するオープン・サイエンス。組織にとらわれない個人ならではの新技術や新製品につながる可能性もあることは確かだ。

製薬会社の高い治療薬を自分でつくろうとする糖尿病患者

   米国にはDIYバイオを楽しむ団体が50以上ある。カリフォルニアでは、月100ドル(約1万900円)の会費で本格的な実験設備を自由に使うことができる。主婦や会社員が気軽に立ち寄る。人工血液、光るビール、いずれは分解して石油製品よりも環境にやさしいバクテリアのシートと夢がふくらむ。

   糖尿病患者の一人が、製薬会社に独占されて高価な治療薬を微生物から作ろうとネットで呼びかけたところ、協力の申し出が相次いだ。「明るい未来をつくる最善の方法だ」という声もある。

   こうした団体は今、世界に168ある。日本でも、東京・渋谷のビルの一角にある実感室に行くと、初心者向け講習会が毎週開かれ、基本的な器具もそろっている。

   米国医学界が懸念するように、良いことばかりではないことは確かだ。安全性、生命倫理や生態系との関係、テロリストに生物兵器として使われないかという危惧......。ビジネスと結びつけようとする動きも、これから露骨になるかもしれない。岩崎教授は「情報やシェア文化の活用とともに議論を深めることが重要で、議論の中身やリスクについてもオープンにしないといけない」という。

   現状は個人任せ、別の言葉でいえば野放しに近い。さまざまな人が多角的にチェックするシステムづくりを急がないと、先端技術の問題につきものの対応の遅れを繰り返すことになりかねない。制度作りまでも米国が始めるのを待てばいいというものでは、もちろんない。動きがとかく鈍い日本の行政がどうも心配だ。「米国もまだだから」などといっている場合ではない。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年6月25日放送「あなたが『夢の発明』の主役!? DIYバイオ最前線」

   

   文・あっちゃん

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