<ファントム・スレッド>
奔放な恋人に振り回され壊れていく男!それこそが愛なのか、幼稚な独占欲か・・・
オートクチュールの偏屈で神経質なカリスマデザイナーのレイノルズとその時々のレイノルズのミューズ。レイノルズとわが家系を守ることに必死の姉――不思議な3人暮らしは、静かに凪いでいる。見初められたはずなのに、彼の生活を乱す行為は即座に見咎められ、いつも優先順位の一番は仕事。そんな環境だから、愛人となるモデルは長続きしない。
1950年代のロンドンを舞台に、恋と家族の崩壊が描かれる。
女に気など使ったことなかったファッション界のカリスマデザイナー
今度、レイノルズが連れ帰ってきたのは、カフェでウェイトレスをして働くアルマだった。広い肩幅に長い首、薄い胸に張った腰、丸みを帯びたお腹。モデル体型ではないけれど、レイノルズが好むミューズそのものの身体を持つアルマは、モデル兼お針子、兼パートナーとして彼に寄り添う。
しかし、生活音一つで機嫌を損ね、暮らしのペースを乱されるとたちまち激昂するレイノルズに、アルマは静かに不満を溜めていく。それでも、大きな仕事のあとで抜け殻のようになったレイノルズは、素直で無力で愛おしい。
フラストレーションのたまったある日、それならばとアルマはある試みを実行に移す。私だけを頼ってほしい、愛してほしい。その目論見は成功し、2人の立場は逆転した。
選ばれる側だった女が操り手へと転じ、無邪気に常識のハードルを越える。翻弄されたことなどなかった男は惑い、動じ、怒りと失意で我を失う。2人がみつけた危うい天秤を保つ方法は、とても正気ではないし、究極の愛の形だとも、私は思わない。誰かを思う熱量が多ければ、幼稚な独占欲で人を傷めていいわけじゃない。
それでも、この映画のジャッジを迷うのは、程度の差こそあれ、天秤を保つ方法は独自にあり、それを許容する関係が成立するケースが多々あるから。
オートクチュール全開!衣装ドレスがとにかくステキ
レイノルズの姉はどこまでこの2人を理解しているのか、というところが飲み切れなかったので、終盤に姉の表情のワンカットが欲しかったかも。というくらい、個人的はヒーロー、ヒロインのどちらにも感情移入できず、終始、突き放した。でも、レイノルズの不利益は許さないという姉の眼差しに引きずられました。
亡霊はアルマなのか、亡くなった母なのか。解釈が分かれるところだと思うけれど、明かり取りの窓の光だけで暮らす、死にも似た静寂の余韻が残ります。
衣装はどれも素晴らしかった。オートクチュール全開! とくに、首元が美しく見えるベロアからのサテンの透かしがたくさんのドレス、素敵でした。
ばんふぅ
オススメ度☆☆☆