<プーと大人になった僕>
自分の中のプーさんに会いに行く大人の物語・・・世知辛い毎日を癒してくれる森の仲間
ディズニーの児童文学アニメ「くまのプーさん」の実写化である。テディベアのプーさんと、その持ち主であるクリストファー・ロビンの再会を描く。大人になったクリストファー・ロビンをユアン・マクレガーが演じている。
映画はクリストファーとプーの別れのシーンから始まる。100エーカーの森の仲間たちは、クリストファー少年の空想の産物であり、やがてぬいぐるみに戻ってしまうことは、クリストファーには分かっているが、プーたちにはどういうことなのか分からない。
「何もしないでなんかいられなくなっちゃった」
そんなクリストファー少年の言葉に頷くプーの姿と、第二次大戦前後という激動の時代を生きるクリストファー青年の姿がオーバーラップするプロローグは、ピクサー映画「カールじいさんと空飛ぶ家」のプロローグに匹敵するダイナミズムに溢れていて素晴らしい。
その後に描かれる現在のクリストファーの人物像は、まさに「大人」の象徴。家と会社の往復の毎日で、子どもに会えるのは寝る前の数分間。仕事は家族のためと自分に言い聞かせ、身を粉にして働く。そんなロンドンの街を舞台にした現実パートは、はっきり言ってどこかで見たことあるシーンの連続で退屈だ。
が、そこに現れるプーさんたち100エーカーの森の仲間たちによって、画面にもストーリーにも彩りが加わる。
時の流れ感じさせるほどよく汚れたぬいぐるみたち
忙しいクリストファーにそっけなく扱われるプーの姿は、見ていてとても心が痛むが、プーの突飛な行動や言い草はどこか笑えてキュンキュンする。「バッカなくまのやつ!」(原作のクリストファー少年のセリフ)と思わず口に出してしまいそうなプーの行動に、クリストファーだけでなく、この映画を見ている私たちも少年少女の心を取り戻していく。
100エーカーの森に霧が立ち込めていたり、いもしないズオウとヒイタチ(象とイタチ)に怯えるキャラクターたちの様子など、原作やアニメでお馴染みの描写も、自分の中にいるプーを呼び起こす手助けをしてくれることだろう。
ぬいぐるみたちの抱きしめたくなるような質感や、時の流れを感じさせる程よい汚れ具合には、製作陣の並々ならぬ思い入れが感じられる。これは自分の中にいるプーに会いにいく大人のための映画だ。そう考えれば、どこかで見たような手垢のついたプロットもなんとか楽しめる。
しかし、クリストファーの想像の産物であったはずのプーたちが、なぜ現実に存在し得るのかという疑問はどうしても残ってしまう。アニメーションではめくられる本とナレーションを用いて原作の世界観を守り、うまく利用してきただけに、その点の工夫が何もなされていないのは残念でならない。
シャーク野崎
おススメ度☆☆☆