世界的バンド「クイーン」のボーカリストであったフレディ・マーキュリーを描いたエンターテインメント映画で、音楽プロデューサーをクイーンのブライアン・メイ、ロジャー・テイラーが務め、1991年に死去したフレディの歌声も劇中でふんだんに使用されている。
栄光の階段を着々と上っていくバンドと、パーソナルな問題に苦しむフレディ(ラミ・マレック)の姿が対照的に描かれる。序盤のレコーディング風景は実に楽しい。ドラムの上にコインをまき散らして、跳ねる音を収録したり、狭いブース内で肩を寄せ合って歌うメンバー4人は、まさに音を楽しんでいるようだ。
そんな彼らを見ているとワクワクが止まらないし、「ボヘミアン・ラプソディ」など誰もが知っている名曲の生まれる瞬間に立ち会えたような喜びは、ファンならずとも胸を打つ。
フレディはメアリー(ルーシー・ボイントン)という女性と交際していたが、バンドが成功していく中で、徐々に自分が同性愛者であることに気づき、葛藤する。心では彼女を愛しているが、肉体では男性を求めるというギャップが彼を苦しめた。
カミングアウトし、彼女を隣の家に住まわせることで、どうにか心と体のバランスを保つが、メアリーの気持ちはフレディからどんどんと離れていってしまう。電話で会話しながら、寝室の電気を点けたり消したりして合図を送るフレディは、好きだけどメアリーに対してどうすることもできない彼の心情を良く表現している。
その孤独につけ込むように、マネージャーのポール(アレン・リーチ)はフレディをゲイコミュニティに誘い、結果的にバンドの仲を裂く悪役として描かれている。夜な夜な開かれるゲイコミュニティのドラッグパーティーを堕落した悪と位置づけることで、フレディの抱えたセクシャリティの問題を分かりやすく見せているが、その後、ゲイコミュニティと付き合わなくなってバンド仲が回復し、優しいゲイと一緒になるというプロットは、偏見そのものでチープに思える。
もっと真摯にフレディが抱えるセクシャリティについて描いてくれていれば、この映画は間違いなく傑作となったことだろう。
1985年に84か国で衛星生中継された伝説のチャリティーライブ「バンドエイド」のクイーン出演シーンを完全再現したラストは、圧巻の一言。フレディ役のラミ・マレックはフレディの細かい癖まで研究し、撮影に臨んだ。大スクリーンの大音量で伝説的パフォーマンスは、当時を知らない世代がクイーンというバンドの魅力を堪能できる絶好の機会である。
シャーク野崎
おススメ度☆☆☆☆