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ITの個性的なデザイン、数多くの人事マニュアル作成...企業で潜在能力を発揮し始めた発達障害の人々

   発達障害を持つ人たちの活躍の場が急速に広がっている。人手不足対策や障害者の法定雇用率の引上げ(平成30年4月から、民間企業で2%→2・2%、国や地方公共団体で2・3%→2・5%)など働く機会が増えているのだが、一方では3・5人に1人が就業から1年以内に辞めるという現実もまだある。

   発達障害は、脳機能の発達に偏りがあり、コミュニケーションが苦手、落ち着きがないといった面が出やすい。その一方で、こだわりを持ったものには丁寧に取り組んで、集中力を発揮することがしばしばある。「15人に1人」ともいわれ、実は決して珍しいことではない。

特性を生かせる仕事では驚きの能力を発揮する

   広汎性発達障害をかかえる24歳の男性は、調理補助の仕事を1年半で辞めた。じっくりと仕事をしたが、「君のおかげで周りの作業が遅れる」といわれたからだ。

   企業向けの説明会を開く就労支援事業所エリアマネージャーの大野順平さんは「特性がどんな作業に向くかを確認し、人には多様性があることを肯定的に、正しく受け止めてほしい」と語る。

   そこがいま、各企業の人事担当者の課題だ。発達障害の人を雇用する都内の病院は、一人一人にマニュアルを用意し、作業内容を具体的に示すように就業支援したところ、定着率が95%に上がった。前述の24歳男性も「チャレンジができた」と定着した1人だ。この事例は企業側の対応によってカバーできる部分があることを示している。

   自身も発達障害があることを公表した作家の市川拓司さんは、出版社に3か月務めた後に税理士事務所で14年間、サラリーマンをした。「組織に入るのはダメだから、人の少ない税理士事務所を選んだが、ケアレスミスの連発でした」「悩むと心身症として体に出る。そういうときに結婚して、妻に食事や香りケアなどで助けられました」と話す。

   ある大手IT企業の子会社は、従業員の70%にあたる36人に発達障害がある。5年前に運営方針を「ミスの防止」から「特性を生かす」に切り換えた。入社当初はデータ入力だけだった女性従業員にゲームキャラクターの色づけを任せると、微妙な色づけから独特のデザインまで考えるようになった。もっぱらコピーばかりをしていた男性は、人事マニュアルの制作に力を発揮し、1600人分をこなした。

こだわりがプラスに作用する伝統工芸の分野

   「戦力化することで、より持続可能になる」「成長していければ、そもそも障害ではなくなる」という考え方だ。発達障害の人が苦手な電話を職場に置かず、1日30分の「有給仮眠」も認めている。

   衣料品大手の子会社は6年前から積極雇用に転じた。60人ほどを雇っているが、「モチベーションが上がらないから辞める」という社員が増えたことに危機感を抱いた。そこで、管理職をめざす人に「リーダー職」という制度を新設して、毎月5000円の手当を支給することにした。

   発達障害のあるメンバー8人をまとめることになった男性社員は「単純作業より自分に向いているかもしれない」と、苦手だったコミュニケーションに努力し始めた。今は相手の反応から指示の出し方を考えている。「仕事に前向きになれた。目標を与えられたのは大きい」という。

   昨年(2017年)からは親会社に派遣、転籍の制度も始めた。「能力を見極めることで戦力の可能性を高める」が基本方針だ。戦力と位置づければ「障害」ではなくなるという考え方が、ここにもある。

   市川さんはもう一歩進んで「障害というより、個性だけでなく、能力の表れ方の違いです」「マジョリティー(多数の人)の基準からしたらマイノリティー(少数)が『障害』といわれる。もしかしたら逆転するかもしれません」とも指摘する。

   それでもまだ周囲の無理解や環境とのミスマッチは多い。本質的なところに考え方の違いがあると市川さんは強調する。「カネを生む力で人間を見るのではなく、生きているだけで価値がある」と、発想の転換を求める。たしかに、そこに新たな発展の可能性が広がるかもしれない。

   作業に集中力を求められる伝統工芸の分野では、こだわりがプラスに作用して、師匠も驚くほどの力を発揮した人もいるそうだ。発達障害のさまざまな特性を前向きにとらえて、秘められた才能を開花させられれば、新しい商品や起業、伝統の維持発展に貢献できる。これはもう社会の要請でもある。人材の宝庫と考えて一人一人を活かす制度の拡充と、理解の促進をさらに進めていこうではないか。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年11月26日放送「企業が注目!発達障害 能力引き出す職場改革」)

    文・あっちゃん