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大病院で相次ぐ「がんの見落とし」 診断態勢の不備から助かる命が失われていく

   大きな病院で命にかかわる「がんの見落とし」が続いている。調べると、技術進歩に追いつかない診断態勢の不備があった。

   愛知県にいる女性の父(49)は去年(2017年)1月、鎖骨骨折で入院して上半身のX線写真を撮ったときに、右肺上部に白い影が写っていた。病院は詳しい検査をせず、半年後に咳や胸の痛みで初めてがんとわかった。すでに転移し、手術できない状態だった。病院は「約6か月、診断が遅れた」と認めたが、女性は「手術で除けた可能性がありました。父が一番つらいと思う。あってはならないことです」と話す。

せっかく検査してもCT画像の3分の1しか見ていない

   こうした例は横浜市立大学病院、千葉大学病院、愛知県がんセンター愛知病院など、見落としを公表した医療機関は少なくとも8病院、患者31人に上る。

   千葉大学病院では男女9人のがんを見落とし、2人が死亡していた。中には、CT画像を専門医が見て、がんを発見していたのに、主治医に伝わらなかったケースもある。CTやMRIの検査を受けると、結果は電子カルテに記載される。だが、がんのことが主治医に直接連絡されなかった。「問題意識が共有できず、不備があったという一言につきる」(山本修一院長)という。

   それ以前に、放射線診断医自身が画像を見きれないケースもある。この病院では5人の放射線診断医に対し、CT検査は年間4万件以上、実は3分の1しか確認していなかった。急速な技術進歩で画像数がはねあがっているためだ。

   40年前は4分から5分で2枚程度しか撮影できなかった。今では4秒から5秒で200枚撮れる。全身の撮影もでき、思わぬ臓器で発見の可能性も広がった。ところが、これを診断する専門医が不足してしまった。人口1人あたりのCT数で日本は世界一だが、放射線診断医は対象26か国中最下位という調査がある。「CT大国」なのに専門医不足。新鋭機器と診療態勢とのギャップは深刻だ。

   国立がん研究センターの中山富雄医師は「情報があまりに多くなり、忙しい主治医がこなしきれない」と語る。放射線診断医のリポートも長文になりがちで、主治医に伝わりにくい面があるというが、患者にとってはそれですむ問題ではない。「伝達ミスとは嘆かわしい。命にかかわるケアレスミスは許されません」と中山医師。

専門医不足が深刻、一線を退いた医師に画像を送って点検

   主治医が自分の専門分野だけに目がいき、専門外の臓器に目を向けない傾向もある。中山医師は「専門性が高くなって、一人ですべてを診るのが無理になってきたので、専門外の人にたずねる必要があります」というが、当たり前のことがなかなか進まない。

   千葉大学病院は、電子カルテをチェックして、読まれていない部分に注意をうながすようにした。注意するのは医師ではなく、システム担当の技術職員だ。

   育児などで一線を退いた医師に画像を送って点検してもらう方法もある。実際、関東地方の病院の画像を福岡県で休職中の医師宅に送信している。都心のオフィスビルにつめた医師が各地の病院から送られてくるデータを一括チェックする「画像診断センター」も始動した。AIにがんのさまざまな形を覚えさせるシステムも、2年後の実用化をめざして開発中だ。

   5年間で6人の見落としがあった東京慈恵医大病院は、これまで患者に渡さなかった診断報告書を直接手渡すことを始めた。情報を共有し、医師に聞きやすくすることで見落としを防ぐ一助にする。中山医師は「血液検査と同じ流れです。もれがないか、お互いに指差し呼称することが大事です」と、患者には相談窓口の利用を呼びかける。

   検査結果に疑問があれば、患者は聞く、医師は小さな不安にも対応する、まずそこからということか。もちろん、聞きやすい雰囲気をつくってもらう必要がある。それでも心配は消えないが、お互いに注意網を張り巡らせていく。そのうえでの正確な現状認識と広範な批判、議論がミスを防ぐ。急いでやるしかない。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年12月3日放送「相次ぐ『がん見落とし』 助かる命を失わないために」)

   

   文・あっちゃん