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人生の最期、あなたは延命治療を望みますか? その日の準備を家族で話し合っていますか?

   「人生の最期で家族が延命治療を受けるかどうか、あなたならどうしますか」という終末医療の問いかけについて考えた。

   89歳の夫が食事中に意識を失い、神奈川県の東海大学付属病院に搬送された。「のどに穴を開け、人工呼吸器をつけても、意識が戻る可能性は低い」と、妻節子さんは医師に告げられた。5年前に都内から温泉地近くに移住して来ての緊急事態に重い選択を突きつけられた。

   60年間連れ添ってきた節子さんがここで思い出したのは、夫がつけていた終活ノートだ。「葬儀は3人の家族だけで」「死後の財産分与はこうする」と記されていたが、回復が見込めない状態になった時にどうするかは、まったく書かれていなかった。結局、医師と相談して延命治療を選んだ。それがよかったか、今も答えは出ていない。

本人が延命拒否を希望しても家族が救急車を呼ぶと...

   たとえ本人が延命拒否を希望していても、いざとなると混乱することもある。近藤茂代さんの94歳の母は末期がんで、「自宅で家族に見守られていたい」と話し、近藤さんも「病院に運ばずに自宅で看とる」と約束していた。ところが、ある朝、意識のない状態で見つかると、近藤さんは動転して119番通報、救急車を呼んでしまった。

   救急隊員が心臓マッサージを始めたとき、近藤さんは搬送をやめてと隊員の腕を引っ張った。そこに主治医が駆けつけ、自宅で看とることができた。「いざとなると頭と行動が違ってしまい、死を受け入れるのをためらってしまいました」とは近藤さんの経験談だ。

   プロゴルファーの東尾理子さんは「いざという時は、私もどうなるかと思います。実際、親子で話したことがありません」という。父の元プロ野球選手、修さん(68)は「僕自身がどういう状態になるかわからないので、判断しづらい問題です」と考え込む。

   119番しながら蘇生や搬送を断るケースは去年(2017年)約2000件あった(消防庁調べ)。心臓マッサージなどの救急処置が「望まない延命治療の入り口」になることもある。修さんは「話し合ったことは全くありません。70歳近くなった自分の中では意識しているが、娘に言うタイミングがない」と語る。理子さんは「きっかけがない。遠慮もある」という。

「ポックリいきたいと言う人も死に方は考えていない」

   第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員は「死ぬ時はポックリいきたいと多くの人は言うが、実は死に方については考えていない」と指摘する。

   千葉県の救命救急センターで脳梗塞から点滴で命をつなぐ永井功司さん(81)の妻孝子さん(81)は先月(2018年11月)、選択を求められた。それまで何でも話してきたが、最期についてだけは避けていた。医師から「心肺が止まったら人工呼吸器をつけますか」と問われ、ベッドの夫に初めて気持ちを聞いた。

   夫は「100歳まで息をしていたい。みんなのことが心配だから」と答えた。「なんで、そこまで前向きなの?」と感謝とともに思いながら、孝子さんは可能な治療はすべてやることに決めた。

   厚生労働省の調査では、延命治療をどうするか「まったく話したことのない人」が55・1%、「詳しく話し合っている人」は2・7%だった。

   千葉県鴨川市の亀田総合病院は、外来を含む75歳以上の患者全員に希望を確認している。「事前指示書」をとり、だれに判断をゆだねるかも決めておく。もちろん書き直すことができる。医師は「大事なのは自分の価値観がわかるようにしておくこと」という。

   地域への働きかけも行い、「死に臨むときに何が大切か」のカード36枚を作り、選んでもらう。「家族といっしょにすごす」「いい人生だと思う」「だれかの役に立つ」などだ。選んだ理由を皆の前で発表する場も設ける。

   繰り返し話し合う、医師がかかわる、書面に残す。「これが重要」と鎌倉千秋アナがまとめた。「家族全員で話す必要はありますね」と理子さんもうなずいた。そこまでのことを十分にやっているだろうか、それをまず考えないといけないなと思わせる問いかけ型の番組内容だった。そのための環境づくりを病院、行政などが進めつつ、最後の最後、具体的にどうするべきかは一人ひとりが決めるしかない。

   ※NHKクローズアップ現代+(2018年12月10日放送「『最期の医療』その時家族は」)