<昭和元禄落語心中>(NHK総合)
もっと聞きたかった岡田将生の「落語」外連なく語られる一人の人生、男と女、嫉妬と友情・・・
累計200万部の雲田はるこのマンガが原作である。名人と言われた昭和の落語家の生涯を描いたものだ。親に捨てられ、七代目八雲(平田満)に弟子入りした菊比古(のちの八代目八雲・岡田将生)は、同じ日に入門した初太郎(のちの助六・山崎育三郎)と無二の親友で永遠のライバルとなる。
この二人の前に芸者みよ吉(大政絢)が現れ、初太郎との間に小夏(成海璃子)が生まれる。しかし、助六とみよ吉は不可解な事故で亡くなり、菊比古は小夏を引き取り育てることになる。
名人と言われるようになった八代目八雲は、与太郎(竜星涼)を唯一の弟子にとり、穏やかに死を迎える、というものだった。
惚れ惚れした所作の美しさ、江戸言葉、色気
助六とみよ吉が不慮の死を遂げた回を除いて、「見せ場」のような派手なシーンはなかったけれど、岡田、山崎、竜星らが演じる高座での落語シーンは素晴らしく、古典落語の世界に引き込まれた。熱心に学んで取り組んだであろう役者たちの落語が、断片的にしか聞けなかったのは残念だった。
少年時代から戦争をはさんで名人と言われる落語家に上りつめ、老人となって死を迎えるまでを演じた岡田は、所作の美しさ、江戸言葉、色気、落語に向き合う鬼気迫る姿はほれぼれするほどで、このドラマはまちがいなく岡田の代表作のひとつとなるだろう。
原作漫画を越えた実写化
ドラマは八雲と助六という男二人の友情物語であり、みよ吉が加わることで青春物語になり、助六とみよ吉の死と、明かされぬ小夏の子供の父親のことでミステリーにもなり、さらに芸事を極める成長物語でもあった。
戦時中、「明烏」「品川心中」といった廓噺を自粛したり、寄席に内容を検閲するための臨監席を設置したなど、落語が低調卑属とされ衰退していったと史実を描いている点では、昭和史の側面もあり、ぐんとドラマに説得力が増している。
原作の漫画がすでに高い評価を得ているなかでの実写化だが、成功したと言えるだろう。
かたくりこ