2019年 12月 14日 (土)

〈未来を乗り換えた男〉
現代のフランスを舞台にドイツのファシズムが広がる奇天烈な映画 物語設定と時代設定がアンバランスで中途半端だ

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「未来を乗り換えた男」((C)Schramm Film)
「未来を乗り換えた男」((C)Schramm Film)

   舞台は現代のフランス。ドイツ軍侵攻によるファシズムが広がり、滞在許可のない外国人が次々と摘発されようとしていた。ドイツからの亡命者ゲオルクはパリで友人からホテルにいる作家のヴァイデルに手紙を渡すよう頼まれる。

   しかしゲオルクがホテルに到着すると、ヴァイデルは部屋で自殺を遂げていた。ゲオルクはヴァイデルの書き残した小説、身分証、メキシコ領事館の招待状を手にし、ドイツ軍がまだ進行していないマルセイユを目指す。

   ゲオルクは自らをヴァイデルと名乗り、ビザを取得し、マルセイユの港からメキシコへと逃亡を図るのだったが、ある時、一心不乱に夫の行方を捜すマリーという女性に出会い、彼女に惹かれていく。ところが、マリーが捜している夫こそ、ゲオルクが成りすましているヴァイデルだった......。

   実際にナチス政権下のドイツから亡命した経験がある小説家アンナ・セーガースによる『トランジット』を映画『東ベルリンから来た女』のクリスティアン・ペッツォルト監督が監督と脚本を兼務し映画化した。

過去のホロコーストと現代の難民問題を融合させていくが...

   奇天烈な映画だ。時代は現代ということだけで明確な時代設定を設けずに過去のホロコーストと現代の難民問題を融合させていく物語設定は理解できるが、マルセイユに溢れている難民たちはひたすら呑気だ。

   生きるか死ぬかの瀬戸際で、ゲオルクはマリーに恋い焦がれ、マリーも夫のヴァイデルを健気に捜しているかと思えば、密かに医者の愛人がいたりする。登場人物の行動に一貫性がなく、理解し難い。難民たちが観光地マルセイユで交流している模様は、ヒッピーたちが裸で水遊びをしているかのような理想郷的描写にすら見える。

   時代設定も何やらおかしい。昔の話でもなく今の話でもない架空の物語であったとしても、実際に映しているのは現代のフランスである。風景が現代的であるからこそ、物語設定と時代設定がアンバランスであり、かといってフィクションの強度を高めているとも言い難く、中途半端感は否めない。難民たちが、一体どこからやって来て、どのような経緯を辿ってマルセイユにいる説明もなく、もはや現地民との区別もつかない。

難民抑圧の恐怖が過去・現在・近未来に流れている

   機械的な物語設定こそがテーマであるかもしれないと予測してみると、「不可解」が「不安」へと変貌していく。ヴァイデルに成りすましたゲオルクやマルセイユの難民たち――誰がどこからやって来たか分からない未来と、将来起こりうる難民への抑圧の恐怖の予感が、この過去・現在・近未来が入り混じった映画に流れている。

   ドイツ軍が侵攻し、難民たちの未来が分岐点を迎えるクライマックスに、ゲオルクとマリーのラブロマンスが絶頂を迎える悠長な展開は、驚きも落胆もなく、むしろ、この不可思議な映画では必定であっただろう。

☆☆☆
丸輪太郎

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