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圧倒的多数が「反対」だった辺野古沖埋め立ての県民投票 葛藤と戸惑いを沖縄の人たちから聞いた

   辺野古の近くで生まれ育ち、今も地元の会社に勤める新垣康之さん(24)は、投票にかける思いを「本当に複雑」と語った。大学時代は米軍基地に抗議活動もした。しかし、反対を訴え続けることに限界を感じ、去年(2018年)の市長選では与党候補を応援し、SNSで批判や誹謗中傷を浴びた。県民投票も「どちらにしても複雑になるだけ」と思い悩んだ。

   普天間新基地と引き換えの形で普天間基地が返還される。それが辺野古の工事を強行する政府の大義名分になっている。新垣さんは「普天間を解決してほしいし、辺野古の埋め立ても嫌。反対にも賛成にもいろんな思いがあるから、伝えていかなければいけない」と考え抜き、結局「反対」を選ぶことにした。

若者「基地や戦争ともう一回、向き合う機会を作りたかった」

   投票を呼び掛けてきた元山仁士郎さん(27)は「基地や戦争について、もう一回、向き合う機会を作りたかった」という。「意思を明確にすることに大きな意味がある」と、それが本当の民主主義に通じると考えている。

   公明党県本部は賛否を示さず、自主投票とした。嘉手納基地の近くに住む長年の支持者、喜納高宏さんは「今回は反対に投票しよう」と考えた。「沖縄だけの問題ではないと、もう一回、全国の人に考えてほしい」と思ったからだ。「いろいろな情報を見たら、やってきたことが本当によかったのかと悩むじゃないですか」と考え込んだ。

   普天間基地をかかえる宜野湾市。自民党の呉屋等市議は地域を回るたびに基地撤去の声に接する。投票では辺野古基地「反対」が「賛成」を上回ると、問題が長期化して普天間返還が遅れることを心配した。「ああ宜野湾市民も反対だというメッセージが出るのが一番困る」と、棄権することにした。「沖縄の人が全員反対でないことを伝えたい」そうだ。

   投票率は52・48%だった。そこに渦巻いた葛藤と戸惑いは深く、大きい。

   開票結果に、安倍首相は「真摯に受け止め、これからも基地負担の軽減に向けて全力で取り組む」と語った。しかし、基地建設の方針は変えるつもりはなく、「工事は続行する」と言ったに等しい。

政府関係者「統一地方選や参院選のダメージにはならん」

   「反対」の43万票は、県知事選で基地反対を掲げて当選した玉城デニー氏の得票を上回る。「予想以上に強く反対が示された」という評価は政府内にもあるのだが、工事続行の点でも、米軍基地の過重なまでの負担という面でも、現実は変わらないように見える。

   NHKが取材した政府与党関係者は「防衛省内で波紋が広がるのは事実だ」と認めながら、「野党などの批判は限定的で、4月の統一地方選挙や夏の参議院選挙にダメージにはならない」とクールな受け止め方が大勢だという。

   県民投票実施までの日々とほぼ並行して、辺野古予定地の40%で軟弱地盤が見つかっていたことがわかった。7万7000本の新たな杭打ちや東京ドーム52杯分の土砂が必要となる。海面から90メートルの深さまで杭を打たなければならず、こんな例はない。工費増大、期間の長期化が強まった。

   「これらの事態を国は把握しながら、隠したまま工事を強行しようとしたと沖縄県は不信を強めています」(NHK那覇放送局の松下温記者)という。県の試算では、工費は2兆2500憶円に達する。

   政府は「杭打ちは技術的に可能で、県の試算は高すぎる」としているが、大深度工事の新たな技術開発が必要というのは何とも不安な話だ。国が設計変更を打ち出しても、沖縄県は承認しないだろう。その先には国と県の法廷闘争が繰り返される公算が高まる。

   県民投票について、「歴史的意味は大きい」「民主主義の成熟度が問われる」と多くの声が寄せられているが、示された「沖縄の民意」に法的拘束力がない。「真摯に受け止める」といいながら、それを盾にとり、政府与党は「選挙さえ乗り切れば」と既成事実を重ねていく姿勢を変えない。この現実に照らせば「民主主義の成熟度」は、決して高くはないのは明らかだ。

NHKクローズアップ現代(2019年2月25日放送「辺野古沖埋め立て 県民投票の舞台裏 ~移設問題の行方は~」