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「トランプの圧力」逆手に取る中国企業したたか!産業転換のいいキッカケだよ

   米中貿易摩擦の影響で中国の去年(2018年)のGDP成長率が6.6%と28年ぶりの低成長となり、中国経済の屋台骨が揺らいでいるという見方が広がっているが、中国企業はしたたかだ。「海外の人は見当違いをしている」と言うのは、中国のシリコンバレーと呼ばれる北京・中関村でコンサルティング会社を経営する張涛CEOだ。

   「中国経済に起きている問題が、貿易摩擦の影響だと思い込んでいるんです。むしろ貿易摩擦はわれわれにとってチャンスなのに」

   中国の最新事情に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、「中国の民間企業はトランプを黒船だと思っています。自分たちが変えられないから、外圧で変えてくれというのです」と話す。

   いったいどういうことなのか。

ハイテク分野には追い風

   出稼ぎ農民たちが靴や帽子などを輸出用に作って栄えてきた広東省の東莞は、いまはシャッターを閉ざした小さな空き工場が並ぶ。「こうした状況は、中国がハイテク産業への転換をめざし、ローテク分野の工場の淘汰を進めてきた結果です」と話す企業コンサルタントの段開新さんは、「貿易摩擦はむしろ追い風」と言う。

   「トランプとの貿易摩擦でとどめを刺されたのは、付加価値の低い企業です。トランプは中国の産業転換を後押ししてくれたわけです」

   去年9月までに、広東省では倒産・廃業した企業が前年同期より4割多い86万社だったが、同じ時期にその2倍以上の172万社が起業している。これらの多くはIT・ロボット・人工知能などハイテク分野のベンチャー企業だった。そして、こうしたベンチャー企業では技術開発を自力でやり遂げようという機運が高まっているという。

   中国の技術開発の原動力になっているのは、数千万人といわれる理科系の大学卒業エンジニアたちだ。段さんは「たとえアメリカが技術を売ってくれなくても、中国の1億人の大卒人材が自力で独自の技術、製品、サービスを生み出しますよ」と自信を見せる。これを政府が後押ししていて、去年10月に中小企業への融資を促進するための金融支援策を全国に通達し、3年間で90億元の予算を組むと発表した。

   リチウム電池に使われる特殊な膜を製造している膜メーカーも融資を受け、新工場の建設に踏み切った。陳鵬会長は「トランプが進める知的財産権の保護への圧力は良い面もあると思う。われわれのような技術開発型の企業には非常に重要です。知的財産の保護がしっかり行われれば、技術革新に取り組む意欲は高まります」と言う。

   武田真一キャスター「中国が米中貿易摩擦を前向きにとらえていることに驚きました」

   ゲストの慶応大学の宮田裕章教授は「中国の圧倒的な数の理系人材は、単なる理系人材ではないように思います。いま進んでいるデータ駆動型社会への流れに対応する新しい人材ではないかと感じます。バイドゥ(百度)、テンセント、アリババというデータ駆動型企業を自国で育てて、大学を出た精鋭をそこに送って育てることができることが、中国の強みになっています」と解説する。

米中のはざまに日本企業生き残る道なし!第3の道さぐれ

   対米貿易に見切りをつけ、「一帯一路」に活路を見出そうという企業も増えている。その中核を担うのが、キャッシュレスや次世代通信網などの中国独自の最先端技術である。

   一帯一路でこれらを広げ、世界経済の主導権を握ろうと狙っているという。張CEOは「中国は一帯一路を推し進め、多くの発展途上国と活発に貿易しています。だからアメリカと貿易摩擦でもめていても、楽観的な態度でいられるのです」と話した。

   アメリカと中国に挟まれて、日本は両国とどう付き合っていけばいいのか。興梠教授は「うまくやっていく方法はないです。アメリカはそんなに優しくないと思う。日本は当然、立ち位置を決めなくてはならなくなります。たとえば、ある企業が中国企業と取り引きしているから、アメリカでは取り引きしないとしたら、制裁されてしまう。これは嫌な時代ですね」と、東西冷戦時以上に自由な貿易活動ができなくなるのではないかと危惧した。

   宮田教授「中国なのか、アメリカなのかではなく、それ以外にも第3の道があるのではないでしょうか。世界経済フォーラムでは、日本やインドが示す第3の道に注目が集まっています。米中対立の背景にあるのは、新しい石油ともいわれるデータをめぐる覇権争いがあります。それに対し、日本やインドのデータ共有という価値観が生まれるのではないかとみられています」と話した。

NHKクローズアップ現代+(2019年2月26日放送「トランプの圧力を逆手に取れ! 中国の"構造転換"」)