2019年 11月 13日 (水)

電気仕掛けで筋力アップ、東京五輪で金メダルをとる選手が出たら応援できるか? 夢物語ではない、最先端スポーツの現実だ

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   アスリートに広がる電気刺激装置。怪我も早く治り、パワーもアップ? 体にほとんど感じない微弱電気がスポーツ界を変えようとしている。

   微弱電気を腕や足に流すと筋肉の疲労回復が早まり、患部に流すことによって肉離れやねんざなどの痛みを緩和させケガをより早く治す。さらに脳の運動野を微弱電気で刺激しパワーや瞬発力を向上させる――

   そんなアスリートには夢のような装置が開発され、プロのアスリートたちの間で利用が広がっている。もっとも急激な普及に対し、効果についての医学的治験や安全面の確認など臨床試験はまだ不十分。いっぽうで「新たなドーピングでは?」と懸念する声も出ている。

電極パットにわずかな電流を体に流すだけで疲労回復

   さてスポーツ界を揺るがす新技術の実態とは?

   陸上男子100メートル走で日本初の9秒台を出した桐生祥秀選手の後藤勤トレーナー(日本オリンピック委員会強化スタッフトレーナー)は、「東京五輪に向けて体のコンディション作りに欠かせないものがある」という。

   「マイクロカレント」だ。電極のパットを張り、わずかな電流を体に流すだけで疲労回復を早めたり、肉離れやねんざの痛みを緩和させたり、治りを早めるという。

   なぜ「マイクロカレント」が疲労回復や怪我の回復を早めるのか?

   アメリカンフットボール日本代表のチームドクター、藤谷博人(聖マリアンナ医科大学スポーツ医学教授)が、筋肉にダメージを受けたマウスの足に微弱の電流を流す実験を試み、回復の過程を詳しく調べた。

   結果は、筋肉の修復を促進するある細胞に大きな変化が見られたという。筋肉細胞の隙間にあるピンク色の「筋衛生細胞」だ。肉離れなどで傷ついた筋肉細胞の修復にはこれが使われるが、微弱電流を通さないときに比べ2倍近く増加し、怪我の治癒を早めていると考えられている。

   しかし、スタジオにゲスト出演したノンフィクション作家の石井光太さんは懐疑的で、「効果が期待できるというのはまだ微妙なところ。例えば、こうした番組で無理に市場が広がる可能性がある。そこは気を付けてゆっくりしたいなと思う」と話す。

   キャスターの武田真一の「では、効果はどこまで分かっているのか?」という疑問に、ゲスト出演した最新医療に詳しい大野智島根大教授が次のように答えた。

   「効くか、効かないかは最終的に臨床試験という形で検証しないといけない。現時点では、小規模な臨床試験や症例報告の形での研究結果がほとんどという状況です。トップアスリートでは体感できているケースもありますが、一般の人や高齢者が使ったらどういう結果が得られるかという情報は不十分だと理解してほしい」

   もっとも、医学的治験が不十分の中でさらなる開発が進み、アスリートたちはさらに先へと利用が先行している。

   キャスターの鎌倉千秋が挙げたのが、米ウイスコンシン大学で開発された電気絆創膏。怪我をした指に張ると指を動かすたびに絆創膏内の金属が動き微弱電流を発生させる。実験では怪我の治りが4倍早くなったという。また頭につけ頭痛に効果のあるものや腕につけただけで吐き気を止めるものまで出現している。

脳への微弱電気でパワーリフティングの記録が大幅アップ

   さらに脳の運動野を微弱電気で活性化させ筋力をパワーアップする装置もできている。パワーリフティングの選手でベンチプレス125キロの世界記録を出したエミリー・フー選手が2年前からトレーニングで使用し、スクワットの限界132キロをこの装置で163キロまで挙げたという。

   武田が「効果のほどはともかく、電気の力でパフォーマンスを上げるってアリ、ナシ?」という問いに、石井さんは「人間ドラマを書くノンフィクション作家としては面白くない。オリンピックのマラソンを裸足で走ったアベベが金メダルを取ったが、そこにドラマがあった。そうしたドラマを消してしまうので面白くない」と語った。

   大野教授も「脳はまだ科学ではわからない領域です。数か月、数年間使い続けることによる弊害の可能性はあり得ます」と指摘する。

   電気仕掛けの人形のように、電気に頼って筋力アップし東京五輪で金メダルを取る選手が現われても面白くはないし、拍手する気にはなれない。

   英科学雑誌『ネイチャー』が「電気刺激は脳へのドーピングではないか?」と問題提起しているが、さてIOC(国際オリンピック委員会)はどんな答えを出すのか...。

   文・モンブラン

   ※NHKクローズアップ現代+(2019年3月13日放送「早く治ってパワーもアップ ちょこっと電流」)

文   モンブラン
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