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親が認知症になってからでは遅い!介護費用に充てるはずが資産は凍結――元気なうちに家族信託

   親が認知症で判断能力なしと診断されると、その資産は凍結され、子どもでも自由に引き出せなくなる。中嶋真由美さん(58、仮名)は元中学教師の父(89)と、介護が必要になったら、費用は父親の資産から出そうと話し合ってきた。父親が所有する賃貸アパートを売って資金を確保するつもりだったが、不動産業者から「認知症になると、アパートを売れない」と聞かされた。

   父親の遺言状は4年前に作ったが、認知症のことは父娘ともに考えていなかった。そこで、家族信託制度を使ってアパートの名義を書き換え、信託用の口座に預金の一部を移して、父の生活に充てることを明記した。

   これは弁護士や司法書士、行政書士らに有償で契約書を作成してもらう制度で、中嶋さんは100万円近くを支払った。生前贈与とは違い、贈与税はかからない。真由美さんは「おカネの管理を私ができる。これでよい施設に入れられます」とホッとしている。

武田真一キャスター「実は私も大変でした」

   信託契約には、作成時点で親の判断能力が十分という医師の診断書と、契約内容を親が理解して自身で署名できるという司法書士らの確認が必要だ。この契約は、親がその後に認知症になってからもずっと効力を持つ。

   司法書士の杉谷範子さんはこう話す。「親子間のタブーをなくして、他人事のように冷静に話し合う必要があり、上から目線で切り出すのはNGです」「親がしっかりしているうちに財産の棚卸しをして、資産の所在を確かめておくことが大事です」

   きょうだいのチームワークも重要で、相続でやり合う「争族」状態になるのを避けるための配慮もいると指摘する。

   「私も身につまされて感じます」と武田真一キャスターが言い出した。武田は5年前に父を亡くし、「銀行口座が凍結されて大変でした」と話す。熊本で父と暮らしていた母親の公共料金支払いにも支障が出た。

   きょうだい5人は東京や沖縄にばらばらにいたため、相続の必要書類を整えるのにも「そのたびにハンコを押して回しました。生前にきちんとしておけばよかった」という。もし1人でも海外にいると、領事館でサイン証明や在留証明をとらなければならない。

きょうだいの仲が悪かったら成年後見制度

   きょうだいの仲がよくない場合もあるだろう。認知症の母親を持つ男性(69)は、預金の不可解な引き出しに気づいた。母親の口座から49万円ずつが何回かおろされ、総額500万円以上になっていた。当時は、50万円未満なら家族が引き出せた。母と同居の兄に聞くと、「なんでおまえに言わなければならないんだ」と反論された。

   この男性は司法書士に相談し、成年後見制度をすすめられた。家裁に申し立て、第三者の後見人に資産管理をしてもらう制度だ。後見人の同意なしには財産を処分できない。この男性の場合は、弁護士が後見人に選ばれ、兄が預金を勝手に引き出せなくなった。

   ただ、カネの出し入れは極めて面倒になる。自宅の修繕をするときも、4社から見積もりを求められ、同居している親のために必要という上申書を裁判所に提出しなければならない。いったん制度に登録すると、親本人の能力回復が認められない限りはやめられない。後見人には、財産規模によって報酬(家裁の目安は月2~6万円)を払う。

   好き嫌いや相性を理由に、後見人を替えることはできない。杉谷さんは「制度をよく理解してから使うことが必要ですが、争族の渦中にある人ほど利用価値はあります」という。

   武田は「しっかり準備した方がいいですよね」とはいうものの、500万人ともいわれる認知症患者の中で、制度を使っている人は21万8000人と、まだ4%程度である。

   杉谷さん「こんなに大変だとは思わなかったと、みなさんが言います。家族で早めに話し合っておくほうが、話し合わずにおくよりも、しんどさははるかに軽くなります」

   高齢化社会の必要事項なのかもしれない。

NHKクローズアップ現代+(2019年4月16日放送「親の"おカネ"が使えない!?」)