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不便な山暮らしや~めた!人間より幅利かせる「アーバン・イノシシ」生ごみエサ食べ放題だし敵はいないし・・・

   アーバン・イノシシというらしい。イノシシの都市出没が増えている。41の都府県の都市で確認され、温暖化のせいか、北陸や東北でも見られるようになった。環境省の推定では、2015年で89万頭で、平成で3倍という。人を襲い、バイクとの衝突では死者も出た。

   衝撃の映像があった。住宅脇から飛び出したイノシシが歩いていた男性を跳ね飛ばし、再三にわたって突きかかり、噛み付いて逃げた。野生のイノシシは人を避けようとするものだが、都会のイノシシは人に挑みかかる。福岡のことだが、広島、京都でも同じような襲撃った。

   埼玉・ふじみ野市で6年前、住宅地に現れたイノシシに小学生が噛まれた。半径20キロ内に山はなく、人口11万人の住宅・商店街の街だ。イノシシがどこから来たのか謎だった。「クロ現+」は2人の専門家に現地を歩いてもらった。地形や水路、目撃証言などから、用水路が浮かんだ。荒川沿いの周辺の市でも目撃されていた。荒川につながる用水路を伝って山から下って来たと推測された。

   東京では、とくに多摩川周辺で目撃が増えている。夜のあきる野市内を堂々と歩く子連れ。府中市では通勤電車に激突した。昭島市は夜間にドローンを飛ばした。すると、30分もしないうちに2匹の大型が現れた。しかも、観測ポイントから20メートルのところに潜んでいた。専門家も「これでは、下流にいきなり現れても不思議じゃない」と驚いた。

コンビニの陰から160キロの巨漢が猛スピードで突進

   スタジオに置かれたイノシシの剥製は、体長1・5メートル、体重80キロ。これが山で生息する個体の標準で、武田真一キャスターは「原付バイクぐらいありますね」という。ある観測では、70キロの個体がわずか2秒で時速24キロのスピードになって、フェンスに激突していた。そんな衝撃に耐えられる人間はいない。

   アーバン・イノシシはもっと大きい。餌を探して動き回る必要もなく、いわばメタボ状態である。兵庫では160キロの個体が捕らえられたことがある。都会育ちは土を掘ったりすることもないため、牙が摩耗しておらず鋭い。ますます危険だ。

   定住が確認されている神戸では、「コンビニの後ろにいた」「犬と散歩していたら、襲いかかってきた」など、接触が年に200回もある。彼らが何を食べているかを調べた兵庫県立大の横山真弓教授は、「本来はミミズや昆虫、木の根などを食べています。それが都市で高カロリーの生ごみを食べたら、もう麻薬と同じ。元には戻れません」と解説する。

   高山哲哉アナは「(アーバン・イノシシは)人間は栄養価の高い食べ物を持っていて、攻撃してはこない、と学習しているんです」と報告する。だから、生ごみを漁る。コンビニの外で待ち伏せして突撃し、弁当を奪うのだという。

駆除や捕獲ではもう間に合わない

   イノシシが山を降りた理由はもう1つある。山が変わったのだ。荒川上流の秩父山地では、里山で農業する人が8割も減った。「人の気配」がなくなって、田んぼがイノシシの遊び場になり、果樹や木の実は食べ放題。それが都会への流れを誘発したらしい。

   政府は2023年を目標に、捕獲による「半減計画」を進めている。神戸市も条例を作って、生ごみ注意、餌やり禁止などを進める。しかし、捕獲や駆除では繁殖に追いつくまいという懸念はある。

   作家の石井光太さんは「駆除は根本対策になりません。新しい共存の道はないか」という。武田キャスターも「社会の変化、生き方の変化、これでいいのか、もう1度問い直す必要がある」とNHKらしく締めくくった。

   しかし、いまさら里山を再生させるなんて、できない相談だ。ましてイノシシと共存? 豚コレラの汚染源という差し迫った問題もある。そんなきれいごとですむ話ではあるまい。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年5月8日放送「アーバン・イノシシ物語 ワシらが都会を目指すワケ」)