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水道が危ない!国連禁止の発がん性物質の汚染――検査してる浄水場は全国の2%弱

   焦げ付かないフライパン、水をはじく衣服に靴、消火剤など、幅広い分野で使われている有機フッ素化合物の一つ「PFOA」に発がん性があることがわかった。工場から漏れ出し、今も自然界に残り、河川を汚染し続けている。その水を飲料水として長期間飲み続けた人の中から、腎臓がんや潰瘍性大腸炎など健康被害が相次いでいる。日本でも各地の河川からこのPFOAが検出されている。

   3日(2019年5月)に開かれた残留性有機汚染物質に関する条約を協議する国連条約国会議で、PFOAの製造・使用の禁止がようやく決議された。自然界では分解されることがほとんどないことから、「永遠の化学物質」(フォーエバーケミカル)と呼ばれ、蓄積されつづけている。

   PFOAの製造・使用が禁止されるきっかけになったのは、19年前にアメリカで起きた住民の健康被害だ。デュポン(現在はダウ・ケミカルと合併しダウ・デュポン)の化学工場で、調理器具を製造するために大量のPFOAが製造され、排水で河川に流されて飲み水を汚染され、工場周辺に住む住民の体内に取り込まれた。

   工場の下流50キロの町に住むアール・ボドキンさん(77)は、22年前に下痢や下血が続く潰瘍性大腸炎を患い大腸を摘出した。ブラウン大学のデビット・ザビッツ教授が工場周辺の住民7万人を調査すると、PFOAの血中濃度が平均的なアメリカ人の20倍に達していた。

   PFOAの血中濃度が高い人たちは、低い人たちに比べて6つの病気(高コレステロール、妊婦の高血圧、精巣がん、海洋性大腸炎、腎臓がん、甲状腺疾患)の発症率が高くなっていた。

   こうした事態を受け、アメリカの環境保護庁(EPA)は2016年に次のような健康勧告値を決定した。「1リットル当たり70ナノグラム(1ナノグラムは1グラムの10億分の1)の水を1日2リットル、70年間飲み続けても健康に影響しない」というものだが、逆に言えば、それ以上なら危険ということだ。

濃度高い大阪・東淀川、沖縄の米軍基地周辺

   日本では大丈夫なのか。20年以上前から全国の水質調査を続けている京都大学医学研究科の小泉昭雄名誉教授研究グループは、先月19日(2019年4月)、大阪市東淀川区にある瑞光寺の井戸水を再調査した。3年前の調査では、PFOA濃度がアメリカの勧告値の21倍だったが、さらに125倍以上に増えていた。

   この井戸水は飲料水として使用されていないが、かつてこの地域にはPFOAを製造していたダイキン工業の工場があった。4年前にPFOA製造を停止し、汚染物質が外に漏れないよう地下に鉄板を敷くなどの対策を講じているが、土壌に広がった汚染物質が雨水とともに地下水に混じり分解されずに残留しているらしい。

   さらに深刻なのは沖縄だ。水道水に影響が及んでいる地域がある。浄水場の取水源となっている河川で、PFOAなどの有機フッ素化合物が最大でアメリカの勧告値の10倍近く検出された。汚染源は米軍基地。基地内に貯蔵している有機フッ素化合物を含む消火剤が訓練で大量に散布されたり、消火剤がタンクから漏れ出す事故が多発しているのが原因とみられている。

   沖縄県は那覇市などに飲料水を供給する北谷浄水場で、3年前から活性炭でPFOAや同様のPFOSを除去していて、今のところ健康被害はないとみている。ところが、小泉教授が基地周辺の住民40人の血液中の有機化合物の濃度を測定すると、PFOSやFOAが本人平均の約2倍程度もあり、別のPFHxSは約65倍という高い数値が出た。

   PFHxSは製造が禁止されたPFOSの代替物質として使われているもので、最新の国連の報告では肝機能への悪影響やコレステロール値が上昇するなどの悪影響が指摘され、次の国連条約国会議で製造禁止にすべきか議論が始まる。

   汚染がわかっても汚染源がわからない怖さ

   浄水場は全国に6423カ所あるが、高山哲哉アナが調べてみると、このうち、厚生労働省が検査を行っているのはわずか122か所だった。2%足らずである。

   武田真一キャスター「日本では十分把握されていないのが現状のようですね」

   かつてイタイイタイ病(岐阜県の三井金属鉱業神岡事業所の鉱山製錬に伴う未処理廃水により神通川下流域で起きた公害)を取材した作家の石井光太氏は、「イタイイタイ病とレベルは違いますが、構造はまったく同じ。用水路とか河川が汚染されているのは分かっているが、汚染源が分からないから声を挙げられない」と指摘した。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年5月15日放送「化学物質"水汚染"リスクとどう向き合うか」)