2019年 12月 9日 (月)

〈轢き逃げ 最高の最悪な日〉
監督・脚本・主演の水谷豊のこだわりが随所に見られる群像劇。あらゆるシーンで視線が仕掛けになり、サスペンスを生む

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被害者の父親(水谷豊)=左=は加害者(中山麻聖)と対峙する((C)2019映画「轢き逃げ」製作委員会)
被害者の父親(水谷豊)=左=は加害者(中山麻聖)と対峙する((C)2019映画「轢き逃げ」製作委員会)

   宗方秀一(中山麻聖)は、勤め先の大手ゼネコン会社社長の娘である早苗(小林涼子)との結婚式打ち合わせに急いでいた。しかし、司会を務める親友の森田輝(石田法嗣)が待ち合わせの時間に遅れ、さらに大渋滞が重なり、輝を助手席に乗せた秀一は焦りをつのらせていく。

   渋滞を避けるため裏道を猛スピードで運転する秀一が急カーブを曲がった途端、目の前に女の子が現れ、衝突する。二人はフロントガラスに横たわる女の子を見上げることしかできなかった。被害者の両親である時山光央(水谷豊)と千鶴子(壇ふみ)は悲しみに暮れ、ベテラン刑事の柳(岸部一徳)と新米刑事の前田(毎熊克哉)が防犯カメラの映像を手掛かりに捜査を始めるが...。

   「TAP THE LAST SHOW」に続く水谷豊の長編映画監督第2作で、水谷の完全オリジナル脚本で製作されている。

   ドローンを駆使した冒頭の走行シーンのテンポの良さとスピードに何かホッとするようなデジャヴを感じる。後にこれがデジャヴではなく「残像」であることを理解する。撮影、録音、美術等のスタッフ陣が「相棒シリーズ」出身なのだ。この安心感は「相棒」ファンには共感していただけるはずだ。

「相棒」を感じさせない水谷の凄味と円熟味

   映像は「相棒」を感じさせるが、内容は、刑事ドラマではなく、「轢き逃げ」を軸として展開されていくヒューマンドラマだ。個々の人物の物語が独立して存在し、各々が「轢き逃げ」に関係していくが、「轢き逃げ」に対する認識が違っている。そして、「轢き逃げ」が介在することによって、それぞれの人物像を浮き彫りにさせていくという、非常に高度な手法で描かれる群像劇だ。

   しかし、群像劇という〈形式〉とヒューマンドラマという〈内容〉は一致しているとは言い難い。主題が薄く、登場人物の物語が分散しすぎている。登場人物が後半に集中するのも物語を弱めている。物語の着地点が見当たらず、脚本に弱点があるのは否定できない。アイデアが秀逸なだけに、ひとつの時系列で人物が交錯する物語を書けるライターとの共同脚本ならば、より重厚な物語になったかもしれない。

   「撮る側の水谷豊」がディテールに垣間見える。水谷のこだわりは「視線」だ。「轢き逃げは見られていなければ無罪なのか」という状況作りが、本作の生命線だ。登場人物たちの視線が突如、受動から能動に変わる。あらゆるシーンで視線が仕掛けになっており、「轢き逃げ」が偶発的なのか、誰かが仕組んだものなのか、何気ないシーンにもサスペンス要素を生むことに成功している。

   役者・水谷は、凄味と円熟味が同居した芝居を見せ、役者陣の中で抜きんでている。「相棒」では名推理で犯人を追いつめるが、被害者の父親として狼狽する姿には「杉下右京」は見る影もない。「相棒」を感じさせない水谷の芝居には、大きな信念を感じる。役者魂か、はたまた「相棒」シリーズと比べられたくないという、監督水谷豊の意地なのか。

丸輪 太郎

おススメ度☆☆☆

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