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どこまで広がる?「米中貿易戦争」2強の狭間で日本は生き残れるのか

    アメリカは中国の通信機器大手「ファーウェイ(華為技術)」に対する取引禁止に踏み切った。トランプ大統領は「ファーウェイを通じて機密情報が奪われる」として、来月中旬(2019年6月)にもほぼすべての中国製品を対象にした関税引き上げの第4弾を準備する。

   ファーウェイはスマホの出荷台数が世界2位、通信設備では世界一のシェアを持つ。次世代通信技術「5G」では最先端をいっているといわれる。世界中の1万3000社近くと部品供給や製品販売などでつながり、パナソニックや三菱電機など100社以上の日本企業とも取り引きがある。ファーウェイ日本法人トップの呉波氏は新型スマホの発表会で、アメリカの禁輸措置を「世界のサプライチェーンの信頼と協業が分断される」と語った。

   グーグルがファーウェイのスマホへの基本ソフトに提供をやめるとの報道もあった。日本のKDDIやソフトバンクは、ファーウェイの新機種発売を中止すると発表、パナソニックもファーウェイとの取引を中止する方針だ。米中貿易戦争の影響が世界に広がっていく。

関税引き上げ第4弾でGDP落ち込み

   アメリカの危機感は強い。「大切な産業と技術を中国に奪われてきた」(トランプ大統領)というのだ。そこにもってきて、中国は2025年までに情報通信やAI(人工知能)などの先端技術で世界トップをめざす国家方針を掲げている。

   トランプ政権で安全保障政策を担当したマクマスター前大統領補佐官は、「中国は民間の先端技術を軍事に融合する政策を推進している。これがアメリカの国益を脅かす」と、アメリカの軍事的優位をもゆるがしかねないと見る。

   ゲストの経済同友会の副代表幹事で、化学メーカーJSRの小柴光信社長は、ファーウェイの技術が生活にも軍事にも役立つ二面性を指摘した。「世界の勢力地図が変わる状況を考えなければならない」という。

   双日総合研究所の吉崎達彦氏は、ファーウェイを「アメリカにとって第2のスプートニクショック」と語った。旧ソ連がアメリカより先に人工衛星を打ち上げてしまった事例にたとえる。「気づいたら中国のほうが先に進んでいたので、アメリカはあせりを感じているだろう」

   その巻き返し策が禁輸措置で、中国を直撃している。中国・深センの工作機械メーカーは、これまで毎年10%は売り上げを伸ばしていたのが、今年は受注の伸びが止まったという。社長は「この先どこまで受注があるかわかりません」と日本の取引先に話した。

   アメリカの関税引き上げ第4弾が実施されると、GDPで中国の3・2%、韓国の0・6%、台湾の1・3%、日本の0・2%を押し下げるという試算もある。一方には中国側の報復措置もある。米国産大豆は30%値下がりし、中国製品を扱うアメリカ企業は大幅値上げも考えられる。「アメリカの4人家族の支出が年間25万円増え、失業者215万人が出る」と予想するエコノミストもいる。

企業は生産拠点をベトナム、タイに移転

   それでもアメリカが対中禁輸措置を「やる」のは、中国による先端技術の不当入手に対して求めてきた法改正がいっこうに進まないためだ。外国企業からの強制的な技術移転、知的財産権の侵害や国有企業への補助優遇策にトランプ政権は猛反発する。被害はアメリカだけの問題ではない。日本の技術も半強制的に提供を求められ、あるいはいつの間にかもれてきた。

   「中国がフェアでないという人は、アメリカ国内のパートナー(取引先)にも日本の経済人にも多く、トランプ政権の禁輸措置への支持はけっこう強い」というのが小柴社長の実感だ。そのうえで、「世界の枠組が変わっていく中で、地域的にもビジネスを多様化し、(米中の)対立を見据えていくのが現実的です」という。

   生産拠点を中国からベトナムやタイに移す企業も出始めた。吉崎氏は「GDPで日本の4倍の国(アメリカ)と2・5倍の国(中国)が競っている。その中で日本は弱者であることを自覚しつつ、いかに選択肢を増やして柔軟にやっていくか、知恵が問われます」と指摘している。

   *NHKクローズアップ現代+(2019年5月23日放送「泥沼の米中"貿易戦争" ~ファーウェイショックの行方~」)