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1日3件も発生している「通学路の事件」人通り多いエリアほど子どもに無関心

   28日(2019年5月)に川崎・多摩区で起きた児童ら殺傷事件は、犯人の岩崎隆一(51)が自殺したため、容疑者死亡のまま書類送検されることになったが、警察庁によると、13歳未満の子供が通学路などで事件に巻き込まれたケースは去年(2018年)1年間だけで、全国で573件もあった。通学日の1日に3件である。

   平成13年の大阪教育大学附属池田小学校で8人の児童が殺害された事件をきっかけに、学校の安全対策が進められてきたが、登下校中の安全をいかに守るかという課題は解決されていない。

   犯罪心理学が専門の東洋大学の桐生正幸教授は、駅が近く人通りが多い現場を見て、「人が多いほど責任の分散が起こり、無関心を作りやすい。そうした点で、リスクが高いエリアと考えられるかもしれません」と話す。

   桐生教授は、秋葉原通り魔事件(平成20年)と相模原障害者殺傷事件(平成28年)を挙げ、こうした犯人は自己をアピールするため、あえて人目に付くところで事件を起こすという。この事件も「少ない時間で多くの人を傷つけるため、この場所を選択したと考えられます。死んでしまったので、アピールが見えてこないのですが、これまでにないタイプの犯行が出てしまったかもしれないですね」と懸念する。

   ゲストの常磐大学前理事長の諸澤英道氏は「通り魔殺人にはメッセージがありますが、この事件はそうではない。自分の人生に終止符を打ちたい、多くの人を道連れにしたいという気持ちでやっています。こうした人はたくさんいると思われ、予備軍への対策を真剣に考えるべきでしょう」と話した。

   地域や学校での子供の安全について研究を続ける「日本こどもの安全教育総合研究所」の宮田美恵子理事長は、事件現場周辺を歩いて検証を行い、子供たちが毎朝決まったルートで、決まった場所に来る危険性を指摘した。「登校時の意外な危険性と言えます。規則正しければ正しいほど、(悪意を持った人からは)予測しやすいんです」

   平成22年には茨城・取手駅周辺で学校に向かうバスに男が乗り込み、刃物を振り回して中高生14人が負傷している。

「ボランティアで見守り」もう無理・・・制服セキュリティで抑止

   川崎市は防犯アプリ「みんパト」を導入し、不審者情報などを配信していたが、この日の犯行は察知できていなかった。去年5月(2018年)、新潟市の小学生が下校途中に殺害された事件を機に、川崎市はさらに通学路の安全点検を強化して、「人の目」による見守りを進める「スクールガードリーダー」を配置し、見守りボランティアも行っていた。

   今回の現場付近でスクールガードリーダーを務める秋田谷隆二さんは、付近の公立小中学校7校を巡回エリアとしていて、この日は不審者情報があって別の学校付近を中心に巡回していたという。「残念だ。悲しいです。力不足を感じる」と肩を落とした。

   宮田理事長はもう民間の力だけに頼るのは困難と指摘する。「これからは防犯を専門にする人たちの力を借り、『制服』の抑止力で事件を起こさせない観点も大切」といい、「朝も巡回」「見せる防犯」「抑止力のある時間・場所で子供を行動させる」という3つのポイントを挙げた。

   諸澤氏「今回の事件は、白昼堂々と多くの人の前で凶行に及んだわけで、こういう一握りのケースは、組織的に防ぐしかありません。セキュリティ会社の人などを雇って、体を張って守ってもらうことも必要になってくるでしょう。国は議論を進め、安全性の高い社会を作っていく努力が必要です」

   *NHKクローズアップ現代+(2019年5月28日放送「川崎殺傷事件の衝撃~子どもの安全を守るために~」)